26 リオンのソウルウェポン

文字数 2,571文字

「ゲームマスター」。

どうしてお前がこんなところにいるんだよ!

アーディスとリオンを隔てるように立つ「ゲームマスター」は、剣を持っていないものの、体を張ってリオンの行く手を塞いだ。


リオンが右に行けば付いてくるし、下から通ろうと思えば下を塞ぐ。

三度目の進路を止められたとき、リオンはその手に武器を取った。

会わせてくれよ、アーディスに。

俺は、そうでもしないとソウルウェポンを見つけられないかもしれないんだ!

誰がそんなこと決めた。愚か者め。

愚か者……?


俺は、「ゲームマスター」の勝手でライトニングセイバーを「俺のソウルウェポンじゃない」とか言われたんだ。

それだったら、本物のソウルウェポンを欲しがるに決まってるだろ!

そんな簡単に、いくと思うな。


リオン。

お前の持っている武器は、誰のソウルウェポンか?

その瞬間、リオンは何かに気付いたかのように一歩引き下がった。

リオンの手に持っていたのは、慣れ親しんだライトニングセイバーではなく、オルティスの刀だった。

オルティスのだ。


ソフィアにこれを渡したんだろ。

何故それを俺に聞く!

ソウルウェポンどうしで戦わなければ、最強の剣を決めることができない。

こちらとしても、ソウルウェポンどうしのバトルで敗れた剣でない限り、ルール上預かることはできないからな。

それと、俺がアーディスに会う話は、全然無関係だ。

俺は、アーディスがソウルウェポンを持っているか確かめたかった!

そう言うか。
そう言うと、「ゲームマスター」は右手と左手、両方の手のひらをリオンに向け、手から紫色の光を放った。
それは……、何の剣だ……!

五聖剣のうち、二つ。


ガルフと、エクスリボルバーだ。

これは、正規の手段で手に入れたものではないのだがな。

正規の手段じゃないって、どういうことだよ。

この二つは、既に持ち主が死んだ剣だ。

「ゲームマスター」の低く冷たい声が、リオンのみならず、やや遠いところでリオンを見つめるトライブやソフィアにも聞こえていた。


二人は、息を飲み込んでリオンの言葉を待った。

死んだ剣士から、剣を奪ったのか……?

いや、俺は「ソードレジェンド」の世界に、この二つの剣の持ち主を呼んだつもりだったが、いずれもこの世界に入ってから、そこのアーディスに殺された。


相手は、ソウルウェポンを持っていないから、俺のところに剣は来なかった。

それだけの話だ。

アーディスが……?


あいつがそんなことするわけ……!

リオンはそこまで叫びかけたが、「ゲームマスター」の向こう側で、わずかにアーディスの顔が見えたところで言葉を止めた。


アーディスが、「ゲームマスター」の背に一歩ずつ近づいた。

俺が、そんなキャラじゃないと思ってるのか、リオン。

アーディスは、酒癖こそ悪いけど……、戦うときは真面目だったじゃん!

いや、俺は最強の剣を求めてこの世界にやってきた以上、俺を狙う強い剣士には容赦しない。


ただ、生き延びさせはできたかも知れない。

アーディス自身がソウルウェポンを持たないと……、何の意味もないはずなのに……!
その時、二人の真ん中で表情を伺っていた「ゲームマスター」が、鋭い目線でリオンを見つめた。

俺がアーディスにそのことを教えたのは、その後だ。


大事な剣士を殺した罰として、リオンとの間でソウルウェポンを簡単には渡せないようにした。

穴を掘ったのも含めてな。

なるほど。そういうことか。


やはり、俺の仮説通り、俺の剣がアーディスのソウルウェポン、アーディスの剣が俺のソウルウェポンって事になるんだな。

そういうことだ。


だが、交換条件のうち、リオンは片方を用意していない。

さぁ、このままでは俺が困る。

「ゲームマスター」が困ったって、俺たちには何の関係もない。


五聖剣の二つだって、勝手に持って行ったぐらいだし……。



とにかく、アーディスの持っている剣を俺に、俺の持っている刀をアーディスに渡す。

アーディスはこの刀でも十分生きていけるし、もし何だったら俺と一緒にソウルウェポンを受け取りに行ってもいいんだぜ。

リオンの目からはっきりとは分からなかったが、アーディスの表情が少しだけ和らいだように、その顔が動いた。


そして、ついにアーディスの方からリオンに武器が投げられた。

やや背の高い「ゲームマスター」をはるか頭上を、放物線を舞うように飛んでいく。

すかさず、リオンは投げ渡された剣の柄の部分を持った。

何と言うことを……。


なら、今から24時間以内にアーディスにライトニングセイバーを渡せ。

その条件が整わなければ、リオンが持った剣を、永久にソウルウェポンとは認めない。

それが嫌なら、リバーサイドタウンの武器屋に行くんだな。

まぁ、そうするよ。


武器屋に預けたのは、俺が悪いからな。

アーディス、今のところこんな図太い刀になっちまって、ごめんな。

まぁ、いいが……。


ライトニングセイバーが、俺のソウルウェポンってことになるんだな、リオン。

そういうことになる。


今までずっとそれを使ってきたから、ちょっと違和感はあるけどね。

そう言うと、リオンはようやくその手で握りしめた剣を見た。

すぐに、目をその剣に近づけて、戸惑った。

アーディス、いつも使ってるデスティニーブレイカーじゃないのか?

あぁ、あの銃剣?


この世界で銃剣は禁止と言われた。

代わりに、武器屋の奥深くで眠っていたヘヴンジャッジを持ってきたんだ。

ヘヴンジャッジ……?

その剣の名を聞いた瞬間、周りにいた全ての剣士が、思わず顔を見合わせた。


五聖剣の一つとして選ばれた、鋭い刃を持つ剣。それがヘヴンジャッジだった。

その名の通り、天国か地獄かを決する魔王の持つ鎌のように、剣先は鋭く、やや曲がっていた。


そのヘヴンジャッジを一度、二度振りながら、リオンはアーディスにそっと告げた。

アーディスの持ってる剣、正真正銘の五聖剣だ。

ライトニングセイバーのような、作られた五聖剣なんかじゃない。


アーディスが強敵を次々死に追いやったって話も、この剣だと納得できるよ。

だな。


じゃあ、リオン。

今度は俺のソウルウェポンとなりそうな、ライトニングセイバーを持ってきてくれないか。

どうせなら、この世界で「青い旗の騎士団」のメンバーに出会ったんだし、二人でリバーサイドタウンに行こうか!

そう言って、リオンがアーディスの肩を組むと、二人は歩き出した。

トライブとソフィアに「少し待って」という言葉を残して。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色