26 リオンのソウルウェポン
文字数 2,571文字
アーディスとリオンを隔てるように立つ「ゲームマスター」は、剣を持っていないものの、体を張ってリオンの行く手を塞いだ。
リオンが右に行けば付いてくるし、下から通ろうと思えば下を塞ぐ。
三度目の進路を止められたとき、リオンはその手に武器を取った。
その瞬間、リオンは何かに気付いたかのように一歩引き下がった。
リオンの手に持っていたのは、慣れ親しんだライトニングセイバーではなく、オルティスの刀だった。
「ゲームマスター」の低く冷たい声が、リオンのみならず、やや遠いところでリオンを見つめるトライブやソフィアにも聞こえていた。
二人は、息を飲み込んでリオンの言葉を待った。
いや、俺は「ソードレジェンド」の世界に、この二つの剣の持ち主を呼んだつもりだったが、いずれもこの世界に入ってから、そこのアーディスに殺された。
相手は、ソウルウェポンを持っていないから、俺のところに剣は来なかった。
それだけの話だ。
リオンはそこまで叫びかけたが、「ゲームマスター」の向こう側で、わずかにアーディスの顔が見えたところで言葉を止めた。
アーディスが、「ゲームマスター」の背に一歩ずつ近づいた。
いや、俺は最強の剣を求めてこの世界にやってきた以上、俺を狙う強い剣士には容赦しない。
ただ、生き延びさせはできたかも知れない。
「ゲームマスター」が困ったって、俺たちには何の関係もない。
五聖剣の二つだって、勝手に持って行ったぐらいだし……。
とにかく、アーディスの持っている剣を俺に、俺の持っている刀をアーディスに渡す。
アーディスはこの刀でも十分生きていけるし、もし何だったら俺と一緒にソウルウェポンを受け取りに行ってもいいんだぜ。
リオンの目からはっきりとは分からなかったが、アーディスの表情が少しだけ和らいだように、その顔が動いた。
そして、ついにアーディスの方からリオンに武器が投げられた。
やや背の高い「ゲームマスター」をはるか頭上を、放物線を舞うように飛んでいく。
すかさず、リオンは投げ渡された剣の柄の部分を持った。
何と言うことを……。
なら、今から24時間以内にアーディスにライトニングセイバーを渡せ。
その条件が整わなければ、リオンが持った剣を、永久にソウルウェポンとは認めない。
それが嫌なら、リバーサイドタウンの武器屋に行くんだな。
まぁ、いいが……。
ライトニングセイバーが、俺のソウルウェポンってことになるんだな、リオン。
そう言うと、リオンはようやくその手で握りしめた剣を見た。
すぐに、目をその剣に近づけて、戸惑った。
あぁ、あの銃剣?
この世界で銃剣は禁止と言われた。
代わりに、武器屋の奥深くで眠っていたヘヴンジャッジを持ってきたんだ。
その剣の名を聞いた瞬間、周りにいた全ての剣士が、思わず顔を見合わせた。
五聖剣の一つとして選ばれた、鋭い刃を持つ剣。それがヘヴンジャッジだった。
その名の通り、天国か地獄かを決する魔王の持つ鎌のように、剣先は鋭く、やや曲がっていた。
そのヘヴンジャッジを一度、二度振りながら、リオンはアーディスにそっと告げた。
だな。
じゃあ、リオン。
今度は俺のソウルウェポンとなりそうな、ライトニングセイバーを持ってきてくれないか。
そう言って、リオンがアーディスの肩を組むと、二人は歩き出した。
トライブとソフィアに「少し待って」という言葉を残して。