31 俺のライトニングセイバーは死守する

文字数 2,520文字

薄暗い光に照らされ、茶髪の青年がオルティスを睨み付けるように立つ。

その手にソウルウェポン・ヘヴンジャッジを携え、その剣をまっすぐオルティスに向けた。

リオンか……。

まさか、このライトニングセイバーが欲しいと思ってるんじゃないだろうな。

オルティスは、トライブに背を向け、一歩ずつリオンに近づく。

その手には、ソウルウェポンの刀と、ライトニングセイバーが握られている。


だが、二刀流で戦おうという意思を見せるオルティスに、リオンはその足を全く引く気配がなかった。

ライトニングセイバーは、俺の剣だ!


たとえソウルウェポンじゃなかったとしても……、オルティスに渡すつもりはない!

リオン……。

二人を見つめるトライブ、そしてソフィアは、リオンの表情から気迫が見えていた。

一本の剣を使い続けた身としてーートライブで言うアルフェイオスと同じようにーーその剣を手放さないという強い意思が、言葉の隅々に溢れ出ていた。

俺は、ライトニングセイバーを死守する!

頼むから、俺以外の血に染めないでくれ。

そんな誘惑には乗らない。


俺は、五聖剣を集めるためだけに、このゲームを楽しんでいるんだからな。

さっきトライブにも、アルフェイオスを捨てろと言ったくらいだからな。

本気で、そう思ってるのか。


ライトニングセイバーを五聖剣の一つだと、間違って覚えているんじゃないか。

五聖剣だろ。


こいつの持っているアルフェイオス。

お前の持っているヘヴンジャッジ。

ここにあるライトニングセイバー。

それとエクスリボルバー、ガルフ。


これらを合わせれば、一本の大きな剣になるとな。

それは、間違って覚えている!


この剣は、五聖剣なんかじゃない……!

ついにそのことをオルティスに伝えたリオンの目は、少しだけ勝ち誇ったかのようにトライブたちの目に見えた。


だが、その表情を前にしても、オルティスは笑っていた。

どこがおかしい。

オルティスの言った五聖剣は、バルムンクが抜けている。


そして、俺のライトニングセイバーが「作られた五聖剣」、つまり本当の五聖剣じゃないってことだ。

そうか。


ただ、ソウルウェポンでも五聖剣でもないこのライトニングセイバーを、お前がどうして守り切る必要があるんだ。

持つだけ意味のない剣だろう。

その言葉を言い放った瞬間、リオンもトライブも、ソフィアでさえも、その足を一歩オルティスに近づけた。

誰もが、オルティスを睨み付けていた。


その中で、トライブだけがその足の勢いを止めることなく、オルティスの前に立った。

アルフェイオスを高く持ち上げ、その剣先をオルティスの目に見せる。


そして、通路の中で湧き上がる、トライブの強い声ーー

言いたくなかったけど、あなたはそれでも本当に剣士なの!


自分の剣に……、自分がその力を一番出せるはずの剣に、プライドひとつ持てないわけ!

プライド……、か……。


私は、そんなもの持った感じがしない。

元から剣の腕だけは高いと信じているからな。

それは一理あるわ。

それでも、オルティスがその刀を使いこなせているから、私やソフィアに勝てるほどの力を出せたことだって、間違いのないことよ。


逆に、慣れない剣を使い始めたところで……、それまで力を見せつけた剣と同じくらいの実力を出せるまで、ものすごく時間がかかるはずよ。

それがたとえ、オルティスや私のように……、周りから強い剣士と言われている存在であっても!

俺だって、そう思うよ。


オルティス、そのライトニングセイバーは、勝手にお前が使えるもんじゃない。

少なくとも、このゲームではそうなっている。

せめて、この剣を使うべき存在に勝ってから、そんな戯言を口にするんだ。

トライブの持つアルフェイオスと、リオンの持つヘヴンジャッジ。

その二つの刃を同時に見せつけられたオルティスの手から、無意識にライトニングセイバーが落ちていく。


そして、軽い音を立ててライトニングセイバーがリオンの足下に転がった。

ここは一つ……、ライトニングセイバーは諦めよう。

ライトニングセイバーは、な。


だが、私は必ず、お前たちの前に戻ってくる。ともに五聖剣を持つ剣士として、私は見るからな。

そう言うと、オルティスは刀だけを持って、薄暗い通路をトライブたちが入ってきた穴の方へと駆けだしていった。
オルティス……!

行っちゃったね……。


トライブの言葉に、戦意喪失しちゃったみたい……。

ようやくソフィアもトライブに駆け寄って、遠くに去りゆくオルティスを見つめていた。

その二人の前に、リオンが回り込むように立った。

オルティスは、逃げてなんかないよ。

あくまで、2対1になったから逃げただけだ。

いつかは俺たちの前に現れると思う。

そうね……。

トライブもソフィアも、ほぼ同時にうなずいた。

だが、軽く笑ったはずのリオンの目が鋭くなるのを、トライブは気付いた。

トライブ。


たしかに、納得できる言葉は言ったけど、俺やアーディスにはプレッシャーだな。

初めて使う剣は、習熟に時間がかかるって話。

そういうことになるわ。


でも、リオンはそのことを分かっていると思う。

強くなるために、どれだけ習熟したか、計り知れないはずよ。

逆に、オルティスのように自分は強いと言ってるほうが……、本当は脆い存在なのかも知れないわ。

脆い存在……。


あのオルティスをそう言うとは、トライブ、なかなか勇気あるな。

勇気あるって言うか、あの言葉を聞いたら、私はそう思わずにいられない。


私だって、最初は誰よりも弱かったんだから。

トライブは、その言葉を軽く笑いながら言った。

リオンが苦笑いしながらうなずくのを、じっと見つめるしかなかった。

それにしても、トライブ。


オルティスはもっと勘違いしてるんじゃない。

ライトニングセイバーが五聖剣じゃない以上に。

まぁ、それは薄々気付いていたわ。


五本中二本は、「ゲームマスター」が持っているわけでしょ。

もしオルティスが私たちから二つ、そしてバルムンクを手に入れても、五本揃うことはないわ。


オルティスが変なことをしなければ、だけど。

変なことを……。


嫌な予感しかしないわ。

トライブは、ソフィアの言葉を聞いた瞬間、それが何であるかをすぐに察した。

アルフェイオスを斜め下に向けたまま、その「嫌な予感」が起こった後のことを考えざるを得なかった。

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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

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