39 穴に消えたリオン

文字数 2,597文字

リオンは、トライブに言われたとおりに、茂った木の上を覗き込んだ。

枝と枝の間までじっと見つめ、少しだけ首を動かしたとき、突然彼の右手が高く上がった。

いるぞ、たぶん。


あそこに、靴っぽいものが見える。

やっぱり……。


かすかに動く音がしたと思ったから、たぶんいると思ったのよね。

でも、どうして二つの剣を持っていながら、この木を登れたのかしら……。

もしかして、剣を先に放り投げて……、とかないよな。


あそこの、枝が平らになっているところが怪しいような気がするけど。

今度は、トライブが木の幹を掴み、体を伸ばしながら枝を見つめた。

トライブが思ったとおり、平らになっている部分には、かすかに剣で刺した跡が見えた。

どうしてこんなところに身を潜めているのかしら……。


普通、剣の練習をしたいのなら、地面でやったほうがいいような気がするけど……。

なかなか、空中では勝負できないものな。剣士は。
それか……、上からタイミングを見計らっているとか……。
見つかってしまったようだな。

トライブの声に被さるように、上からオルティスの声がはっきりと響いた。

リオンの目が、すぐさまその声に向けられた。

オルティス、降りてこい!


俺の五聖剣が欲しいんだろ!

ヘヴンジャッジを持たない左手で、リオンは鋭く手招きしようとした。
リオン、いきなり挑発するわけね。

当たり前だろ。


これはもう、「ソードレジェンド」を勝ち抜くための絶好のチャンスだ!

今すぐにでも、オルティスを見つけないと気が済まないんだ。

リオン、オルティスを見つけてさらに燃え上がっちゃったみたいね……。

そうね……。


気持ちは分からなくもないけど……。

トライブがそう言うと、リオンは木の幹を掴み、ヘヴンジャッジを左手に持ったまま片手で登り始めた。


先程見た平らな部分まで到達すると、そこから先はリオンの靴ほどの幅の枝がオルティスのほうへと伸びており、リオンは一歩ずつオルティスへと近づく。



その時だった。

トライブたちの耳に、誰かが強く地面を踏みしめたような重い音が響き、次の瞬間オルティスのいた枝が大きく揺れた。

オルティスが……、下に落ちてくる!
私も、トライブと一緒に戦うわ!

トライブとリオンは、オルティスからやや離れたところで、彼に剣の先を向ける。

ほぼ同時に、オルティスも刀、そして五聖剣の一つバルムンクを、やや斜めに傾けて二人を見つめた。

オイオイオイオイ!


俺から逃げたってことか……!

リオンが、オルティスの後を追ってジャンプしようと枝から足を踏み出した。


だが、運悪く、彼の真下にソフィアがストリームエッジを持って立っている。

枝にぶら下がって垂直に降りるしかないようだ。

ソフィア、邪魔だよ……!

俺の敵なんだからさ!

リオン。


「ソードレジェンド」は、リオンとオルティスだけでやってるわけじゃないのよ。

トライブは、葉に見え隠れするリオンの髪の毛を細い目で見つめながら、やや鋭い口調でこう言った。


だが、ほぼ同時にオルティスの顔も、同じ方向を見つめた。

私も、いまお前と戦うのは時期尚早だと思っている。


リオンと戦わせろ。

ヘヴンジャッジをこの手にするために、その持ち主の力が知りたい。

そのためには、お前ら二人は、邪魔だ。

私だって、このゲームを勝ち抜くために、オルティスと戦いたい!

ソフィアの足が一歩前に出て、オルティスを見つめる。


その時、トライブがアルフェイオスを手前に引き、左手でソフィアの肩を軽く叩いた。

ソフィアが戦いたいって思うのは分かるわ。

でも、オルティスがリオンと戦いたいって言ってる以上、私たちは引いた方がいいかも知れない。


また、勝負する機会はあると思うわ。

トライブ……。


普段から強敵と戦いたいトライブまで、そんなこと言うのね……。

私は、戦いたくない相手と剣を交えることはしないわ。

ソフィアにも、何度かそれは言ってきたと思う。

まぁ、言われたような気がするけど……。

そうね……。ここは手を引くわ。

トライブとソフィアがゆっくりとオルティスから離れていくと、代わりにリオンがオルティスの目の前に立った。


すると、逆にオルティスの方が二つの刃を下に向け、軽く笑いながらリオンに近づいた。

これから私の指示する場所が、ヘヴンジャッジの最期の地だと思え。

私は、その手に持っている剣を、「ゲームマスター」の手に届けるまでだ。

お前が、五聖剣を全て手に入れて、その後どうしたいかは、全部トライブから聞いた!

目的はお見通しだぜ!

それがどうした。

お前には関係のないことだ。


ついて来い。

オルティスが体の向きを変え、木の横までゆっくりと足を進めた。

彼が足を止めたのは、リオンも調べた穴だった。

この落とし穴が、勝負の場所ということか。

落とし穴扱いされるとは、心外だな。


ここは、私が二つの刃を使って掘った、地下コロシアムの入口だ。

二人きりで、ここで勝負をしようじゃないか。

すると、オルティスは穴に自ら足を踏み出した。

オルティス、落とし穴に飛び込む気かしら……。

トライブが軽く口を開けて見守る中、オルティスは決してそのまま下に落ちることはなかった。

一歩ずつ着実に降りている。穴を削るときに階段を作ったのだろうか。



同じように、あっけに取られているリオンに、オルティスは10段ほど下で振り返った。

リオンだけ、この階段を降りてこい。

分かってるって。

リオンは、オルティスの後を追って、地下への階段を踏み出した。

やがて、リオンの茶髪がトライブたちの目から見えなくなってしまった。


その時、それまで何一つ話さなかったアーディスが、ゆっくりとトライブの後ろから近づいてきた。

オルティスの奴、相手を指定するようになったか。


ソウルウェポンを失った俺は、このゲームに参加している必要ないような気がするが、違うか。

アーディス……。

突然、アーディスの口からこぼれた言葉に、トライブは振り返って、やや目を下に向けた。

アーディスの手には、リオンからコピーで渡されたヘヴンジャッジが握られていた。


トライブは、軽くかみしめた唇をいつほどくか、そのタイミングを考えるのがやっとだった。

その時、ソフィアの手が、トライブの肩を叩いた。

もういいんじゃない……。


これ以上、私は隠せない。

ソフィアの震える唇を見て、トライブはかすかにうなずいた。

そして、何も知らされていないアーディスの目をじっと見つめた。

アーディス。


あなたは、まだこのゲームから消えてはいけないプレイヤーなのよ……。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色