29 二人を追って

文字数 2,577文字

とりあえず、リオンとアーディスを追わないといけない……。

「ゲームマスター」、彼を狙ってるわけでしょ。

そうね。

もう、だいぶ先に行ったかも知れないけど、リバーサイドタウンのほうに向かえばきっと追いつくはず。

トライブとソフィアは、先にリバーサイドタウンに向かったリオンとアーディスを追いかけた。

来た道をとんぼ返りすることとなるが、その道のりは二人が思っているほど近くはなかった。

たしか、あっちよね。

なだらかな坂を下り、川に沿うように歩くが、リバーサイドタウンの入口が遠くにしか見えてこない。

それどころか、リオンやアーディスの背中も見えてこないのだった。



そして、想定していた以上の時間が過ぎた後に、トライブとソフィアがリバーサイドタウンに戻った。

街に入っても、まだ二人の姿が見えないようね。

必ず、この街にいるわ。

しかも、絶対に武器屋に立ち寄っているはず。

リオン、武器屋にライトニングセイバーを預けたものね……。


でも、その武器屋、どこにあるんだったっけ……。

ソフィアは、数日前に街の人々から情報を聞いたときのことを思いだした。

だが、武器が並んでいるような店を見た記憶はなかった。


二人は、とりあえず店が建ち並ぶメインストリートの看板を一軒一軒見た。

だが、武器を扱ってそうな店は見当たらない。

もしかして、今日武器屋休んでるとか。

「ゲームマスター」が近くにいて、商売にならないとか……。

そんなことないわよ。

リオンがライトニングセイバーを預けたのは、今朝でしょ。

そう言いながらも、トライブはメインストリートをUターンしようとした。

だが、トライブは次の一歩を踏み出したとき、何か異変に気が付き、その場所を右のつま先で軽く叩いた。

トライブ……、何か手がかりとか見つかったの?

この場所だけ、地面が柔らかいというか……、タイルが動くようになってるのよ。

ソフィア、いい?

その剣の実力で、何度もトレジャーハントを成功させているトライブの勘が、いま足下に広がっている世界を指差した。

タイルは2メートル四方で、もしその下に穴が空いているとしたら、人が一人入ってしまいそうなところだった。


すぐにソフィアもトライブの横に立ち、二人で同時にタイルを持ち上げた。

やっぱり……。

トライブたちがタイルを持ち上げると、そこには地下への隠し階段があった。

しかも、階段の先には少しだけ灯りが点っている。


何かがある。

トライブはそう思うしかなかった。

トライブ、この中に行くの?


明らかに、街の中に作られたダンジョンじゃない。

ダンジョンかどうか、分からない。

私はこの場所がダンジョンじゃない可能性の方が高いと思っているわ。

そう言うと、トライブはその足を隠し階段のステップに乗せた。

手すりのない階段を、数段上の階段に手を掛けながら降りていった。


その後をソフィアも付いていく。


30段ほどある階段を下りきったとき、トライブは思わず息を止めた。

リバーサイドタウンに、こんな空間があったなんて……。
トライブ、どうしたの?

二人の前には、かすかなランプの光とともに、だだっ広い通路が広がっていた。

通路と言うより、水路かトンネルか、明らかに人の手によって作られた世界だ。

地上は川が流れてるし、きれいな街だけど……、地下にまでこういう世界を作るほど「ゲームマスター」は考えているのね。

そうね。


この世界は、何もかも「ゲームマスター」が作った世界だものね……。

トライブとソフィアは、広い通路を進んでいった。

だが、次第に二人は自分たちの足音しか聞こえないことに気付いた。

というか、リオンたちは本当にこの中に入ったの?


もしこの隠しダンジョンが剣を預けた場所じゃなかったら、私たち完全に無駄足になるじゃない。

タイルがああなっていたということは、少なくともそこからは入ってないわね。


でも、こんな人工的な通路なんだし、もしかしたら全然違うところから入った可能性はある。

幸い、この通路は今のところ分かれ道がないわけだし、進めるところまで行った方がいいかも知れない。

そ、そうね……。

二人は、ランプの灯りだけを頼りに、通路を奥に進んでいく。


そして数百メートル歩いたとき、トライブは天井から響いてきた音に足を止めた。

剣と剣が交わる音ね。

このダンジョンで、誰かが戦っているわ。

もしかして、リオンとアーディスが、お互いのソウルウェポンで戦いだしたとか……。

それはないわ。

たぶん、あの二人で最強の剣を決めるのって、最後だと思う。

トライブは少しだけ目を細め、剣の音が聞こえてきた方向に歩き出す。

通路の奥、おそらくこの場所から数百メートルは離れていないところのように、トライブには思えた。


そして、角を曲がったところでトライブは遠くを指差した。

オルティスがいる……!
えっ……、オルティス……?

トライブは、飛び出したはずの角に身を寄せ、オルティスと思われる青年に気付かれないように右の人差し指を向けた。

その後ろから、ソフィアも顔を覗かせ、すぐに息を飲み込んだ。

二人を追っていたはずなのに、まさかここでオルティスと出会うなんて思わなかったわ。

なんか、ストリームエッジが戻ってすぐに、私がまたオルティスと戦わなきゃいけないなんてなったら、それはそれで辛い。


でもどうして、こんな場所にオルティスがいるの……。

分からない……。


でも、私たちの気配を気にしていないって事は、たぶん私たち以上に何か目的があるのよ。

トライブは、体を角に潜めたまま、オルティスの動きを見つめる。


すると、オルティスは壁を軽く叩き、その硬さを確かめているようだった。

しかも、壁のブロック一つ一つでそれをやっている。

トライブの姿が仮に見えたところで、すぐにやってくるような様子ではなかった。



だが、しばらくしてオルティスの手が止まった。

一つのブロックが奥に動いたのだった。

オルティスが、隠しブロックから何かを取ろうとしている……。


……えっ!

トライブは、思わず後ろに重心を傾けた。

オルティスの手に握られていたのは、白く輝くライトニングセイバーだったのだ。

リオンの剣……。


もしかして、武器屋に行くと言って、この場所に隠していた……。

そんなこと言ってる場合じゃないわ。

ライトニングセイバーを、自分のものにしようとしてる……。

次の瞬間、トライブはアルフェイオスを構えながら、壁から飛び出した。
オルティス、何してるのよ!
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色