56 地に墜ちた剣 地に墜ちた身体
文字数 2,502文字
アッシュの手によって、立ち向かう意思を潰された剣士リオン。
その体が、眩しい光に照らされながらもがいている。
オルティスの刀を取ろうと、リオンはうつ伏せの状態で懸命に右手を伸ばすが、数メートル先に墜ちた剣を掴むことはできそうになかった。
その中で、アッシュは一歩ずつリオンに近づく。
苦し紛れに訴えるリオンを、やや離れたところからじっと見つめるトライブ。
ヘヴンジャッジの欠片は、彼女の足下に無残にも転がっている。
それを見て、トライブは一度首を横に振った。
たしかに、あっけなく折られた……。
リオンにさえ、コピーのヘヴンジャッジが渡せていれば……、お前をこんな目に遭わせることなど……!
リオンは、それでもオルティスの刀を手に取ろうと手を動かしていたが、ついに痛みに耐えきれなくなり、刺された腹を右手で押さえつけた。
それまで絶えずアッシュとアーディスを見続けていた瞳が、苦しそうに閉じていく。
トライブたちの目にも、リオンの傷がはっきりと分かった。
そしてついに、女剣士がその足を、一歩前に出そうとした。
だが、ほぼ同時に、アッシュの足がリオンのすぐ横で止まった。
レインボーブレードを右手で高く掲げ、今にも彼の心臓に突き刺そうという状態でぴたりと止まっていた。
リオンの大きく開いた目が、彼の倒れた向きからはほぼ後方に当たるトライブに、一瞬だけ向けられた。
体も大きく動かしており、その強い使命感が、彼の体を起き上がらせようとしていたのだった。
だが、立ち上がる力を取り戻したリオンに待っていたのは、レインボーブレードを鋭く振り下ろす、アッシュの手だった。
心臓を貫く鈍い音が、トライブの悲鳴の中で静かに消えていった。
深く刻まれたレインボーブレードを、アッシュがゆっくり持ち上げたとき、リオンは顔から地面に叩きつけられ、そのまま動かぬ物と化した。
トライブにとって、またしても守れなかった剣士。
冷たい風が吹き付けるその体から、彼の意思がトライブにはっきりと響いた。
そして、トライブの目がオルティスの刀に向けられた。
動かなくなったリオンの体を跨いで、アッシュがレインボーブレードを正面に構えたまま一歩ずつトライブたちに近づいた。
女剣士二人は、武器がない。
この状態でレインボーブレードが動き出せば、あっという間に勝負が付いてしまう。
それでも、トライブはアッシュに言い放った。
たしかに、私はもう長いことアルフェイオスを使いこなしてるし、こだわりに見えるようなセリフだって言ってきた。
けれど、絶対にそれを持って戦わなきゃいけないなんて、決まったわけじゃない。
私は……、たとえ他人の武器でも戦うことができる……!
「剣の女王」の目が、一気に細くなる。
そして、鋭い目どうしが交わり合う中、アッシュがそっとレインボーブレードを引き、剣を持たない左手で、地に墜ちた武器――オルティスの刀――を指差した。
そう言うと、トライブは落ちた刀に向かってゆっくりと歩き出し、アッシュの鋭い視線に追われる中で「新たな武器」を取りに向かう。
オルティスの刀の前までやって来ると、トライブは小さくうなずき、しゃがみ込んでは、ゆっくりと刀に手を伸ばしていった。
トライブは、刀を持ってゆっくりと立ち上がった。
刀の先が光に照らされ、その光が時折トライブの体に力を与えていく。
二度、三度とトライブの手が刀を強く握りしめ、武器に宿るパワーをしっかりと感じ取っていく。
アルフェイオスに比べてやや剣身が長く、明らかに重い武器。
わずかな時間で使いこなせるようにしなければならないプレッシャーさえ、トライブはかすかに感じた。
だが、これまで何度も剣で立ち向かってきたトライブが、武器を持ったまま怯むはずがなかった。
「剣の女王」のプライドが、その短い言葉ににじみ出る。
そのかすかに強い言葉がかき消されたとき、二人の足がほぼ同時に動き出した。
勝負が始まった。