13 慣れない刀で戦う恐怖

文字数 2,534文字

ソフィアの……、足が見えたわ!

ソフィアの足が触れたと思われる場所を登っていったトライブとリオンは、水路から2メートルほど登ったところで、ついにソフィアの足を確かめた。


そして、その先ではソフィアが懸命に岩をこじ開けようとしている。

それも、素手ではなくソフィアの持っている武器で、だ。

ソフィア!

一緒に上の岩を砕くわ。


今行くから、待っててちょうだい!

トライブ……。

オルティスの刀で、何とか砕け……そう!

ソフィアがそう言った瞬間、ソフィアの持っている刀が鋭く岩を突き刺し、力のまま砕け始めた。

だが、砕け始めたとは言え、その力までコントロールすることはできない。

ソフィアが刀で突き刺して、そのまま上に持ち上げようとした岩は、結局下から上まで刀に貫かれてしまった。

ヤバいな、これ……。

岩が降ってきそうだ。

降ってくる……。

まさか、大きな塊に砕いたんじゃ……。

トライブがもう一度上を見上げたとき、その顔に細かい石の塊が落ちてきた。

すぐに、トライブは左右を見渡し、隠れる場所を探した。


だが、時間はなかった。

これ、水路の上に降りた方がいいぞ!
それも考えたけど、ここで降りたらソフィアを見失っちゃうわ。
だが、トライブが隣の岩に足を乗せようとしたとき、その足に異変を感じた。
滑る……!

水路際のぬかるんだ道を通ってきたトライブの靴が、ここでついに悲鳴を上げた。

手で岩を掴むこともできず、トライブの体は真っ逆さまに水路に落ちていく。

おいおいおい!?
ごめん、リオン……!

重い音と共に、トライブは背中から水路に叩きつけられ、流されていく。

そして、水路が狭くなっているところで体が止まり、そこでトライブは手足を駆使して起き上がった。


リオンも、トライブの後を追って水路からトライブを引き上げにかかる。

おいおい、慎重にいかないと……。

リオンの手がトライブの右手に触れ、トライブが体を起こしたその時だった。

突然、二人の頭上で何かが動くような音が響いた。

地響き……、かなり大きいわ!

幅1メートルほどの巨大な岩が、水路に向かって二つ同時に落ち、水路を跨ぐようにして覆い被さった。

その岩がトライブの真後ろまで迫ったが、水路で流されたことにより直撃は免れた。

あのまま上を目指したら……、完全に上から直撃されたよな。

えぇ。

それだけは何とか避けられたようね……。


あとはソフィアが落ちてなきゃいいけど……。

あぁ、あんなところから叩きつけられたらヤバいしな……。

そう言いながら、リオンは後ろを振り返り、息を飲込んだ。

ソフィアが刀で砕いた岩が、まっすぐにそびえ立っており、そこには足場が全くなかった。

これ、俺たち上に登っていけないんじゃないか……?


トライブ、どう思う?

このままじゃ難しいわね。


剣で足場を作るか……、それかソフィアと同じように岩を砕いて道を作るか……。

岩を砕いた方がいいんじゃないか?

ただでさえ、この岩が登りにくくなってるし……。


地道に砕くとするか。

そう言うと、リオンは真っ先にライトニングセイバーの先端を岩に叩きつけ、砕こうとした。


だが、距離をかせぐことができず、岩を砕くには全く力が足りなかった。

なかなか、切りにくいな……。

ソフィアはどうやって切ったんだろう。

リオン。

おそらく、これがオルティスの刀の力なのよ。

オルティスの刀……?


そんなに強いのか?

えぇ。


オルティスと戦ったことがあるけど、あの刀は殺傷力がものすごく高いのよ。

パワーもそうだけど、素手で攻撃を受けたら間違いなく深いダメージになるわ。

トライブも、そう言いながらアルフェイオスを強く握りしめ、岩に向かって力いっぱい振りかざした。


だが、トライブとリオンが二人がかりで剣を叩きつけても、岩にほとんど傷をつけることができなかった。

それを見て、リオンがライトニングセイバーを小刻みに叩きつけ、岩に足場を作る作戦に切り替える。

こうでもしないと、この岩は上がれそうにないな。

地道に時間をかけないと、俺たちがここから脱出できそうにない。

えぇ……。

トライブは、一度首を縦に振り、リオンとは別の角度から岩に傷を付け始めた。


だが、トライブが数回岩に傷を付けたとき、穴の上で何か金属がぶつかり合うような音が聞こえ始めた。

その音に、トライブはすぐに手を止め、岩づたいに響いてくる音に耳を澄ました。

この剣は、誰にも渡さない!
そう言ってられるのも、今のうちだ……!

地上にいる二人の声は、トライブの耳にもほとんど入ってこない。

だが、居場所を考えても、そのどちらかがソフィアであることに疑いはなかった。


しかし、もう一人の声は高くもなく低くもない男性の声で、トライブが聞いたことのないものだった。

もしかして、ソフィアが戦闘に巻き込まれてる……?

だろうな。


しかも、相手はアーディスだ……?

アーディス……?


私、未来の世界に飛ばされたときに、少しだけ顔を見たような気がするけど……、リオンと同じ騎士団にいた人でしょ。

そう。アーディスは騎士団の仲間だ。


もしかしたら、さっきトライブに剣を落としてくれたのもアーディスだったのかも知れないな。


でも、一つだけ疑問があるんだ……?

そう言うと、リオンもようやく手を止めて、上を見上げた。

そして、剣と刀がぶつかり合う音をはっきりと聞くと、首をかしげた。

なんか、気になったことでもあるの?

いや、どうしてアーディスがソフィアと戦ってるんだ……?

それだけだ。

たしかに……!


ソフィアにも、アーディスにも戦う理由がないような気がする……。

トライブも、薄々気付いてただろ。


ソフィアはもうソウルウェポンを持ってなくて、オルティスの刀を使わざるを得ない。

それなのに、アーディスはこの世界にやって来て、いきなりソフィアと戦う理由が見当たらない……。

それに、ソフィアは全く初めての剣で戦わなければいけない……。

この世界のルールを知っていたら、アーディスだってそんなことしちゃいけないって思うでしょ。

トライブは、やや心配そうに上を見上げる。

その間にも、剣と刀のぶつかり合う音は続く。


だが、そのテンポがほんのわずか狂ったとき、一人の剣士の体が地面に投げ飛ばされる音がトライブの耳に響いた。

……っ!
ソフィア……!
トライブは、ほとんどできていない足場に足を乗せ、上まで登り始めた。
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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

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