25 その目で訴えるソフィア

文字数 2,555文字

ソフィア……、なんか言いたそうだったけど、どうしたの?

何でもない。


なんか、アーディスって名前に目が反応しちゃって……。

リオンの口からアーディスという言葉が出てきたとき、ソフィアの目が二人をじっと見つめていた。

その目は、トライブにそう告げた後も、全く変わっていなかった。

ソフィアがそう言うならいいんだけど……、もしかして一昨日アーディスと戦って負けたのがショックだったりしないの?

全然。


負けたことなんて気にしてない。

それに、あの時はオルティスの刀だったけど、今は自分の剣を持ってるわけだし、戦ったら勝てそうな気がする。

アーディスは、ああ見えて切り込み隊長だぜ。


俺でも苦労するくらいなんだから、そんな簡単に倒せるような剣士じゃない。

リオン。


ソフィアが、アーディスのことで思い詰めてるように見えたからそう言っただけなのに、そこで揚げ足を取らないの。

トライブがそう言うと、ソフィアは首を激しく横に振った。

思い詰めてなんかない。

私はただ――、アーディスのことが心配でたまらないだけなの。


「ソードレジェンド」の中で、ずっと一人で行動してるでしょ。

私たちの近くにいたこともあったのに、少なくともトライブやリオンとは顔も合わせられていない。

もし彼が……、このゲームでものすごく重要なポジションだったら……って思ったの。

実力的には、心配しないレベルだぜ。


でも、この世界、何があるか分からない。

アーディスのところに行って、俺たちが守ってやったほうがいいんじゃない?

ソフィアがそう言ってるくらいなら、私たちだって行ったほうがいいと思う。


二人とも、行きましょ。

そ、そうね……。

ソフィアは、表情だけは浮かれない目を見せないように、小さな声でトライブたちに言った。



三人は昼近くのリバーサイドタウンを後にし、再び森のほうに歩いて行った。

川を上るのは、辛いな……。

どうして水は高いところから低いところに流れていくんだろう。

リオン。大した坂じゃないわ。


そんなくらいで弱音を言ってたら、剣士なんかやってられない。

厳しいな、トライブは。


それでソードマスターとして信頼されてるほうが、俺からしたらすごいと思うよ。

リオンの頃は、どうだったの?

俺の「青い旗の騎士団」が自由奔放な防衛集団だったから、「オメガピース」でもそんな感じだったかな。


強い相手と戦いたい剣士は戦わせてやったし、どうしても守らなきゃいけない相手が来たときは俺たちが全力で戦う、みたいなことをやっていたかな。

疲れたような表情から一転、得意げになって話すリオンの目は、どこか明るかった。


騎士団のリーダーでもあり、「オメガピース」では9代目のリーダーだった彼の世界に、二人は少しずつ溶け込んでいきそうだった。

私は、すごく厳しいソードマスターと言われる。

真面目に戦っていなければすぐ言うし、叱ることもたくさんあるわ。


でも、それは剣士たちが強い相手に立ち向かっていくのに、どうしても必要だから言ってるの。

剣を持っても、気持ちひとつ沸き上がってこない人に、剣で戦う資格はないと思ってるわ。

補足するようだけど、たぶん、それはトライブが剣を学ぶ時の心構えだったんじゃないかな。


本気で立ち向かっていかなかったら、トライブのお父さんにも、兄弟にも追いつけなかったって、前に言ってたような気がするし。

ソフィアの言う通りよ。


私は、強くなるためにどんな努力も惜しまなかった。

それが教え方にも、ソードマスターとしてのリーダーシップにも現れてるの。



でも、私は不思議と嫌われてなんかいない。

一度は私の言ってることに納得できなくても、そのうち私の言うことが身をもって分かるようになるの。


だいたいは、強敵に手も足も出なかったときだけど。

真逆だな。俺と。

リオンは、やや口を開いたまま、トライブにそう告げた。

真逆と言えば、真逆ね。


でも、それで下の剣士が強くなってることは同じだと思う。

これで結果が伴わなかったり、言ってることが間違っていたりしたら、私はすぐにでもソードマスター交代させられてたと思う。

それが今までなかったってことは、信頼されてるソードマスターだってことよ。

私も、何代かソードマスターを見てるけど、トライブが一番いいかも知れない。


ソードマスターとしての魅力は、強敵を倒す力というよりも、常に剣士を本気にさせてくれるハートよ。

周りから「本当の意味で優しい」と言われるのも、すぐに納得できた。


トライブも、この言葉言われて、すぐにうなずいたよね。

そうね……。

そう口を開きかけたトライブは、目の前の光景に気が付き、左腕を真っすぐ伸ばした。


その腕の先に、赤い髪の剣士が遠目に見える。

リオン。

あれがアーディス?

そういう感じはする。


とりあえず、俺が行って声かけてくるよ。

リオンは、トライブとソフィアに振り向くと、やや早足で赤い髪の剣士に向かって進みだした。

だいたい数百メートルはあるだろうか。


振り向いたリオンの表情は、先程までと打って変わって明るそうに見えた。

リオン、騎士団のメンバーにようやく会えるから、嬉しいのかも。

そうね。


ソフィアの心配も、これで落ち着いたでしょ。

トライブがそう言うと、ソフィアはトライブから目を反らし、駆けていくリオンの背中を遠目で見つめていた。

それはまだ決められない。


アーディスの剣が、例えば誰かのレプリカだったら、それは不安的中ということになってしまう。

不安的中……?


もしかして、アーディスがこの段階で、ソウルウェポンを持つ他の剣士に負けてはいけないということなのね。

簡単に言うと、そういうことね。

トライブは、リオンの背中を見続けるソフィアを横目で見た。

その目は、リバーサイドシティを出たときと、ほとんど変わっていなかった。


まるで何かを隠しているような瞳が、トライブにもはっきりと分かった。


だが、トライブが何かを口にしようとしたとき、リオンとアーディスの間に黒いシルエットのようなものが立ちふさがった。

もしかして、ここで「ゲームマスター」が出てくるの?

……っ!


……っ!

荒れた呼吸を浮かべながら、ソフィアがその場に座り込んだ。

そして、目を両手で覆いながら、全身をブルブルと震わせた。

ソフィア……、どうしたの……!しっかり……!
トライブが揺さぶるも、ソフィアの苦しそうな体は全く変わる気配がなかった。
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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター/剣=アルフェイオス

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳/剣=ストリームエッジ

女剣士で、トライブの最大の親友、かつ最大のライバル。

実力で上回るトライブに追いつき、いつかソードマスターになりたいと強く願っている。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター/剣=ライトニングセイバー

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター/刀=名称不詳

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

ゲームマスター


最強の剣を決するゲーム「ソードレジェンド」を司る謎の男。

剣を持ったときの実力は、計り知れない。

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