34 剣の取引 そしてこのゲームの行方
文字数 2,511文字
赤く揺れる髪と、黒いシルエットに誘われて、トライブはリバーサイドタウンの東にゆっくりと近づいていった。アルフェイオスをまっすぐ向け、それでもオルティスたちには気付かれないように、あまり音を立てないように歩いた。
そして、オルティスの姿がはっきり見えたところで、トライブは民家の壁に隠れ、そこからオルティスの後ろ姿を見た。
黒いシルエットは、思った通り「ゲームマスター」だったようだ。
「ゲームマスター」の低い声が、トライブの耳にも聞こえてくる。
それを、私と「ゲームマスター」の賭けにしようと言ってるんだ。
いま、「ゲームマスター」には3本の五聖剣がある。
エクスリボルバー、ガルフ、そしてさっき私がその使い手を殺したバルムンク。
対して、この世界に残っている五聖剣は、消去法で2本となる。
トライブは、かすかに息を飲み込みながら、今にもその剣先を民家の壁から外に出してしまいそうなアルフェイオスを見つめた。
光が差し込まないこの空間でも、アルフェイオスの剣先が輝いているようだった。
一方、トライブの目の前では、五聖剣の持ち主が見ているとは知らず、オルティスがさらに賭け話を続ける。
アルフェイオスの柄を握るトライブの手は、徐々にその力を強めていった。
オルティスの話の内容が、やはりトライブが何度も見てきたような、ゲームの世界を崩壊させるような中身だった。
五聖剣をソウルウェポンにしている剣士から、剣を奪うことだ。
勿論、お前のソウルウェポンを使わずしてだ。
ゲームのルールでは、バルムンクで落としたとしても俺のところに五聖剣は入らない。
お前のソウルウェポンが、バルムンクじゃないからな。
だが、今からバルムンクで落とした五聖剣に限り……、ソウルウェポンどうしの戦いで勝利したときのように、剣を転送させるようにする。
そして、こっちに5本揃えば、七色の剣をお前のものとする。
それでいいか。
いや、ルール上は頂点に立つわけではない。
だが、七色の剣がお前のソウルウェポンになれば、間違いなく他の剣士は打ち負かされることとなるだろう。
お前が頂点に立つ可能性が、十分高まる。
とにかく、お前に必要なことは五聖剣を最後まで集めきることだ。
そう言うと、「ゲームマスター」はかすかに笑ったような唇を浮かべながら、そのシルエットを消した。
消えゆく「ゲームマスター」の目と、トライブの目が一瞬だけ合ったように、トライブは思えた。
そして、「ゲームマスター」の姿が見えなくなった瞬間、トライブは再び民家の壁から通りに出て、早足でオルティスの背中に迫った。
オルティスの手には、全部で3本の刃が握られていた。
もともと彼のソウルウェポンだった刀、「ゲームマスター」から授かったバルムンク、そしてそのバルムンクを持っていた剣士に渡されたはずのコピーの刀。
その手は、とても戦闘を始められるような状況ではなかった。
まぁ、察しの通り、私はこの「ソードレジェンド」の世界を支配する。
私こそが、真の「ゲームマスター」となる。
そして、バルムンクの力を授かったいま……、私とお前は対等の立場だ。
五聖剣を持つ剣士、という意味でな。
トライブの目が、オルティスを鋭く睨み付ける。
だが、オルティスはトライブのその視線から目を反らし、手に入れたばかりのバルムンクを、まるで子供が自慢するかのように高く上げ、時折その剣先を見つめた。
そう言うと、オルティスはバルムンクの使い手から奪い取った刀をその場に置き、左手にソウルウェポンの刀、右手にバルムンクを持った。
二つの刃から、アルフェイオスの剣先で交わるように光が解き放たれた。
トライブは、右手のアルフェイオスを握りしめた。
二刀流のオルティスとは、先程から勝負が止まったまま、決着がついていない。
「剣の女王」の本能は、オルティスを前にして燃え上がっていた。
トライブとオルティス。
最高レベルの剣の実力者が、町外れの冷たい土を同時に蹴り上げた。