56 識女の季節の終わり
文字数 463文字
それでも、とフォルクハルトは思った。物事がそれほど単純でいいはずはない。聖母の導きならまだしも、これが識女の企てであったとしたら一大事だ。慎重にその言葉の意味を探る必要がある。なにしろその甘言は必ず歪 んだ形で実現するからだ。まるで人の想いや願いを嘲笑うかのように。
そもそもフォルクハルトが望む未来は自分がこのまま死に果て、東ガリアの王位に就かぬことだ。
そのためにダニエルの命を犠牲にしろというなら、そうだろう。彼女を殺せば戦争が始まり、その中で望んだ未来が実現する可能性は高い。西ゴールとの戦 はそれくらいの過酷を極めることになるだろう。この場合、ダニエルの時間を動かすというのも、単に死に向かって動かしたに過ぎなかったということになる。
だが、この道筋がもっとも現実的だ。二人揃って滅びて終わる。しかし……。
「それは、いやだな」
フォルクハルトは月を睨みながら呟いた。「私はどのような形であれ、彼女だけは死なせたくない」
その気持ちがどこから湧いてくるのか、フォルクハルトにはわからなかった。
(続きは近日中に更新します)
そもそもフォルクハルトが望む未来は自分がこのまま死に果て、東ガリアの王位に就かぬことだ。
そのためにダニエルの命を犠牲にしろというなら、そうだろう。彼女を殺せば戦争が始まり、その中で望んだ未来が実現する可能性は高い。西ゴールとの
だが、この道筋がもっとも現実的だ。二人揃って滅びて終わる。しかし……。
「それは、いやだな」
フォルクハルトは月を睨みながら呟いた。「私はどのような形であれ、彼女だけは死なせたくない」
その気持ちがどこから湧いてくるのか、フォルクハルトにはわからなかった。
(続きは近日中に更新します)