第27話 騎士崩れの男(2)

文字数 7,597文字

 一方、マキナルと対峙しているディーンは斜め上段に剣を構えたまま、踏み込めないでいた。
 そんなに時間の経過はないはずだが、かなり長い時間が経ったように感じる。
 どうしてだ、俺の剣の方が早いはずだ、勝てる、そう思うのだが、何故か、躊躇してしまう。
「どうした。こないのか」
 マキナルと名乗った男は剣を中段に構えながら、ジワジワと間合いを詰めてくる。普段、父と修練している時であれば、すでに打ち込んでいる間合いだ。
「ならば、こちらからいくぞ」
 スーと相手が動く。くる!ディーンは剣で払い、そのまま切り返す心づもりでいた。
 鋭い突きがディーンの喉元を襲う。体が動かない、間に合わない、剣を振り下ろせず、頭を撚るようにして何とか突きを躱す。
「うっ」
 ディーンの首筋にスッと一筋の切創が走った。
 間一髪だった。相手の突きが予想以上の速さだった。いや、いつもなら払えたに違いない。なにか、おかしい、ディーンは自分の動きに違和感を覚えた。
「ほう、躱したか、だが、これはどうだ」
 すぐさまマキナルは次の剣をくりだす。上段から袈裟懸けに振り下ろされる剣だ。
 駄目だ、躱せない、体捌きで躱せず剣で受け止める。
「止めて!」
 カヲルの悲鳴と共にキーンという甲高い金属音が響き渡る。剣を受けた両腕がビリビリと痺れる。相手は本気で俺を殺そうとしているのが分かる。
 鍔迫り合いの状況に一瞬足りとも力が抜けなかった。今、俺は命のやり取りをしているのだ、と実感せずにはいられない。
 マキナルはグッと力を込めて剣を押しこんでくる。ディーンも必死に力を込めて押し返す。
「フフ、震えているのか」
「震えてなどいない」
「フフ、確かに体は震えておらぬようだが、心が震えているぞ」
「何イ」
 心の中を見透かされディーンは逆上しそうになる。
「フフ、互いの命が天秤に掛かっている、この瞬間が堪らぬ。そう思わぬか、ディーンとやら」
「な、何を言っている、ググ」
「この至高の一時をもう少し楽しんだ方がいいぞ」
 ニヤっと笑った瞬間、マキナルはディーンの腹部に蹴りを放った。
「ぐわ」
 ディーンの体が後ろにふき飛ぶ。
「キャア、お願い、もう止めて!」
 カヲルは両目を手で覆った。目の前で繰り広げられている命を掛けた戦いを直視できない。
 先程、酒場でも用心棒の二人が斬り捨てられるのを目の当たりにしたばかりだ。14歳の少女が耐えられるものではない。
 まずい、息が出来ない、みぞ落ちに蹴りを入れられたディーンは一瞬、呼吸ができなくなった。間髪入れずにマキナルが迫ってくる。くそ、動け、と必死に念じた瞬間だった。
「ぐわあ」という叫び声と共にマキナルがヨロヨロと後退りした。ディーンの剣が片膝をつきながらも一閃したのである。
 ハアハアと肩で息をしながら前を向くと、マキナルが片膝をついているのが見えた。グゥと苦痛に歪んだ顔をしている。
 ディーンの斬撃はマキナルの胴を真横に切り裂いていた。手応えはあったが、傷は浅く、致命傷を与えるほどではなかった。
 内臓まで達していないことが分かると、マキナルは立ち上がった。まだ戦う気なのか、とディーンは驚愕する。黒色で目立たないが、マントは出血でかなり濡れている。
「フフ、これしきの傷で戦いを止める訳には行かぬぞ」
 マキナルが構える。この執念は一体何だ。
「もう勝負はついているじゃないか」
「勝負がついているだと」
「その出血では最早動けないだろう」
 クククッとマキナルが笑う。その不気味さに ディーンは戦慄を覚えた。
「この俺に情けをかけてくれたというわけか、ククク。ならば、これはどうだ」
 素早い動きでマキナルが剣を突き出した。
「な、何ィ」
 先ほどより早く、先程より殺気がこもっている。剣で払おうとするが、吹き飛ばされそうなくらい重い。 
 とても重傷を負っている者の剣ではない。
「教えてやろう。騎士の決闘は生きるか死ぬかだ。まして相手に情けを掛けるなど屈辱を与えるのと同じことぞ」
 再びマキナルが剣を振り下ろす。
「グッ」力強い剣が真っ直ぐにディーンの脳天を狙って振り下ろされる。キーンという甲高い金属音が響き渡る。
 ギリギリのところでディーンは剣で受け止める。
 なんて力だ、このままでは本当にやられてしまう。ディーンは相手の剣をいなすと、地面に振り下ろさせ、空いた頭部に斬撃を放った。完璧に捉えたはずだった。
 キーンと金属音が響き渡る。
「何!」
 なんとマキナルが剣で受け止めたのである。間合いも速さも十分だった。なのに何故か受け止められてしまう。目の前で起きていることが信じられなかった。
「斬ったと思っただろう。なぜ俺を斬れないのか、驚いているようだな」
 その通りだった。何が何だか訳がわからない。
「お前の剣は軽過ぎるのだ。何かが足りぬ。それでは俺を斬ることはできん」
 俺の剣が軽いだと、太い木の幹を一瞬で斬ることができる俺の剣が軽い訳がない。しかしマキナルの言うことは妙に説得力があった。
「では参るぞ」
 マキナルの凄まじい斬撃が繰り出される。ディーンは必死に剣で受け止めるのがやっとだ。
 まずい、やられる。追い込まれたディーンは起死回生を狙った一撃を放つ。しかし、その一撃はマキナルの胸をかすっただけだった。黒マントにジワジワと血が滲む。また躱されのか、とディーンは衝撃を受ける。
「フフ、会心の一撃を放ったつもりだな。だが、また躱されたのがショックの様だな」
 マキナルが構えを変えた。
「次で終わりだ」
 何を繰り出す気なのか、全く読めない。ディーンは身体を硬直させた。
「俺が何を繰り出そうとしているのか、わからないのだろう」
 なぜ俺の心が読めるのだ、とディーンは焦る。一体どうしたらいい、誰か教えてくれ、父さん、どうしたらいいんだ、心の中で必死に叫ぶ。
 その時、カシャカシャという音が近づいて来るのが聞こえた。ヒヒーンという馬のいななきも聞こえる。 
 振り返ると、騎兵が十騎ほどこちらに向かってくるのが見えた。
 サルフルム率いるテネア騎兵団だ。先頭に、ここまで道案内をして来たトラルがいる。
「騎兵隊だ」「ま、まずい」
 後方でディーンとマキナルの決闘を眺めていた黒マントの男二人が慌てて逃げようとするが、前方は倒木にはばまれ、両脇は急斜面で逃場がない。
 咄嗟にカヲルを人質にして迎え討つ体制を取らざるを得ない。
「全軍、止まれ」
 サルフルムの号令が森中に響いた。
「あそこで男と対峙しているのがお主の倅か」
「はい」
「あい分かった。無事で何よりだ。しかし、一刻を争う状況ぞ。あとは我らに任せよ。ここまでの道案内、ご苦労」
 労われたトラルが後ろに下がる。黒マントの男と対峙しているディーンの姿が見えた。無事だったことに安堵したが、相手の男が予想通り並の腕では無いということが遠目からでも分かった。
 手負いのようだが、凄まじい気迫を発している。全く油断ならない状況にトラルは気を引き締める。しかし、ここはサルフルムに任せるしかなかった。
「テネア騎兵団副団長のサルフルムである。人攫い共よ、大人しく観念致せ」
「サルフルムだと!」
 黒マントの男たちに動揺が走った。鬼のサルフルムという異名を取るこの老兵のことは当然知っている。
「大人しく、その娘を離せ。無駄な抵抗は止めよ」
「ケッ、やれるものなら、やってみろ、この女がどうなってもいいのか」
 カヲルの喉元に短刀を突きつける。もう一人の男も剣を抜いた。
「もう一度だけ言う。その娘を大人しく離せ」
 サルフルムは全く動じず最終通告をする。
「そっちこそ、変な動きしやがったら、この女の命はないぞ」
 カヲルはプルプルと震えていた。
「娘を離す気はないのじゃな」
「当たり前だ!」
「おうよ。やれるものなら、やってみやがれ」
「あい分かった」
 そういうと、サルフルムは馬を降りた。無造作に男達に近づいていく。
「と、止まれ。何を考えていやがる。女がどうなってもいいのか」
 それでも、サルフルムはシャキーンと長槍を構えながら、さらに近づいてくる。
「安心せよ、せめてもの情け。苦しまぬように一瞬であの世に送ってやる。往生せえ」
 鬼のサルフルム、ああ、この男は本気だ。黒マントの男達の顔が恐怖で引きつる。
「娘、目をつぶっておれ」
 カヲルはいわれるままにギュッと目をつぶった。
 次の瞬間、ズバッという音と共に長槍が男の胸部を貫いていた。穂先が肋骨を砕き、心臓を突き刺している。
 あ、あ、と言葉にならない声を発し、男は絶命した。
「な、な、」
 カヲルを拘束していた男は動揺し、思わず手を緩めてしまう。その一瞬を見逃さずサルフルムの槍が胸部に突き刺さる。
 男はピクピクと体を痙攣させたかと思うと、ドタっとその場に倒れ伏した。
 何が起こったのか、カヲルが恐る恐る目を開けると、自分を攫った男達が二人、地面に倒れているのが見える。
「キャア」と、カヲルが悲鳴を上げる。
「怖い思いをさせてしまい済まなかったのう。だが、よくぞ耐えた」
 サルフルムはカヲルを部下達のいる後方へ移動させ、安全を確保した。残りは一人であるが、厄介な相手であることは承知していた。
「後はお主一人だけだ。抵抗しても無駄なことは分かっておるだろう。ん、お主、どこかで」
「フフ、確かに、この状況は厳しいな。ディーンとやら、早く決着をつけるぞ」
 マキナルは中段から下段に構えを変えた。くる、ディーンは身構える。
「む、いかん。オーガン」
 サルフルムが部下に合図を送ると、オーガンと呼ばれた騎兵が前に出る。
「ディーン、迷うな。斬れ」トラルが叫ぶ。
「父さん」
「では、参るぞ」
 スウーとマキナルが前に出る。それは、まるでスローモーションを見ている様だった。下段から放たれたマキナルの鋭い剣先をディーンは後ろに身を引きながら躱す。
 だが、それはマキナルの計算どおりだった。一歩踏み込むと、上がった剣先をディーンの首に鋭く振り下ろした。死角からくるこの剣は、これまで、どんな相手でも倒してきた、謂わば必殺の剣だった。
 しかし、マキナルの剣は空を切った。
「!」
 目の前にいたはずのディーンがいなくなっていたのである。何が起こった、相手を見失い、咄嗟に後ろを振り向いた瞬間、刃を喉元に突きつけられていた。
「な、何だと」
 マキナルは自分の必殺技が躱されたことに驚愕した。初見では絶対に見極めることは出来ないはずだった。ところがいつの間にか体を入れ替えられ、躱されていたのである。
「何故、突かん」
 マキナルが問う。
「勝負がついたからだ」
「先程、言ったはずだぞ。騎士の決闘で相手に情けを掛けるのは、屈辱を与えるのと同じことだと」
「なんだと」
 この状況下でまだ勝負しようというのか、騎士のプライドとは、命を捨ててまで貫き通すものなのか、ディーンは驚愕する。
 まずい、やはり斬れなかったか、成り行きを見守っていたトラルは不安が的中したことに最悪の事態が胸をよぎった。
「ディーン、斬れ。其奴は死ぬまで勝負を捨てぬぞ」「と、父さん」
 ディーンは覚悟を決めた。剣を握る両手に力を入れる。ところがどうしても、腕が動かない。頭では理解していても、人を殺めることに心が抵抗感を感じているのだった。
 な、なぜだ、動作が止まった一瞬をマキナルは見逃さなかった。キーンという甲高い金属音がこだまする。
「しまった」
 ディーンの剣が弾かれ、宙を舞っていた。
「騎士の勝負に情けは無用、身を持って思い知るがいい」
 マキナルの目がギラリと光るのが見えた。俺はここで死ぬのか、ディーンは青ざめる。
「若き男よ。伏せよ」
 サルフルムの大きな声が響いた。オーガンと呼ばれた騎士がすかさず矢を構える。
 ティーンは咄嗟に地面に伏す。シュパーっと空気を切り裂く音が後方から近づいてきた。オーガンの放った矢だった。
「ム」
 マキナルは身を伏せ躱す。しかし、素早く二の矢を装填するオーガンを見たマキナルは後ろに駆け出した。ディーンが斬り倒した倒木のある方向だ。そこに留めていたディーンの乗ってきた黒毛の馬に素早く跨がると手綱を引く。
「ディーンとやら、勝負はお預けだ。だが、必ず決着はつけるぞ」
 パンッと鞭を叩くと、黒毛の馬は斜面を上に駆け出した。
「全軍、一斉に矢を射よ」  
 サルフルムが号令する。後方に控えていた騎士達もオーガンと混じって一斉に矢を放つ。しかし、逞しい黒毛の馬は傾斜のきつい斜面を物ともせず、一気に駆け上がって行った。
「待て」
 追跡しようとする部下達をサルフルムが止めた。
「止めよ。あの黒毛の馬はかなりの駿馬だ。追いつくのは難しい。それに、これ以上深追いすれば日が沈む。深い森の中、まして暗闇であの男を仕留めるのはお前達では無理だ。返り討ちにされるのが落ちよ」
 サルフルムの冷静な判断だった。カシャ、カシャと甲冑を鳴らしながらディーンに近づいていく。
「危なかったのう。あの男相手に、よくぞ、ここまで闘ったものよ」
 トラルも駆け付ける。
「ディーン、怪我はないか」
「大丈夫、大した怪我はないよ」
 ディーンは首筋を擦る。切創を負ったものの、浅く止血するほどではなかった。トラルは安堵する。
「ディーン」
カヲルが駆け寄り抱きついてきた。
「良かった、ディーン、生きてて良かったよーワアー」
 胸で泣きじゃくるカヲルの体温が感じられる。やっと生きているという実感が湧いてきた。
「怪我はないか、カヲル」
「うん、大丈夫」
「お前が守ったのだ、ディーン」
 トラルがポンっと肩を叩く。
「父さん」
 そうだった。そのために命をかけて戦ったのだ。戦いに夢中で忘れていた。
「うむ。この娘のためによくぞ戦った。それが本当の騎士道ぞ」
 サルフルムが労う。
 しばらく、カヲルはディーンを放さなかった。本当に妹のジュンに似ている。助けることが出来たことに心から良かったと思う。
「さあ、そろそろ帰るとしよう」
 サルフルムが促すと、カヲルの顔色が曇った。あの酒場に帰っても辛い思いをするだけだった。
「どうやら、あまり帰りたくないようだな。あの店で辛い思いをしているのであろう。娘、お前はどこから来たのだ」
 カヲルはサルフルムに、病気の父親の借金返済のため、あの店で働いていること、店で重労働をさせられていることなど、これまでの経緯を辿々しく話した。
「あい分かった。借金は帳消しにするよう店主に話をつけてやろう。ただし、ほかの店で働いてもらわねばならぬが、娘、お前さえ良ければマチスタの馴染みの店を紹介してやろう。何、安心せえ、非力な娘に重労働などはさせない店主だ」
 カヲルの表情がパッと明るくなった。しかし、どうして、ここまで面倒を見てくれるのか、どうやって借金を帳消しにするつもりなのか、とディーンは疑問に思う。
「フフフ、今回は特別ぞ。ディーンとやら、お主の勇気に免じて少しだけ、この娘の面倒を見てやろう。さあ帰ろうぞ」
 サルフルムの合図に、一行は来た道を引き返し始めた。
「それにしてもお主、その若さで大した剣の腕前じゃな。それも変わった剣術を持っている」
 帰り道、サルフルムを挾むようにディーンとトラルの馬が並走している。サルフルムが両横に来るよう招いたのだ。ディーンの後ろにはカヲルが乗っている。
「トラルよ。お主もかなりの剣の達人とみた。只の木こりではあるまい。何か事情があるようだが、まあ良い。子細は聞かぬ」
「恐れ入ります」
 トラルは頭を下げた。
「ところで、実はわしはあの男のことを知っておる。ボルデー守備軍にいた、確か、マキナルと申す男だったはずだ」
「本当ですか?」
 ディーンはサルフルムを見る。
「うむ。ボルデー戦役の時、共に戦った男だ」
 やはり、元騎士だった者か、とトラルは納得する。ボルデー戦役は凄まじい戦いだったと聞く。一般住民にも、かなりの犠牲が出たということだった。
「三年前、アジェンスト帝国軍がローラル平原に攻めてきたときのことよ」
 サルフルムが語りだした。

 アジェンスト帝国軍1万がアデリー山脈を超えて侵攻を開始、この戦いの目的は、ピネリー王国領の町ボルデー奪取だった。ローラル平原侵攻の足掛かりとして拠点を作る戦略である。ボルデーはアデリー山脈に近く、アジェンスト本国からの補給がしやすいという利点があった。このとき、ボルデー守備軍二千は、迎え撃つと同時にすぐさま援軍を要請、テネア守備軍も一千の軍勢で援軍に駆け付けた。このとき、サルフルムも司令官として参戦した。
 数に勝るアジェンスト帝国軍を相手に戦いは熾烈を極めた。城郭を突破され市街戦となったのである。最終的に周辺都市の守備軍からなる連合軍が援軍に駆け付け、反撃を開始、敵を撤退させることに成功したものの、かなりの一般市民が犠牲となった。
「あの戦いで獅子奮迅の戦いを見せたのがマキナルよ。優れた剣術を活かした闘いぶりは鬼神の如きと敵から恐れられた。だから、わしもあやつの事を憶えていたのだ」
 サルフルムが認めるほどの戦いぶりである。かなりの強さだったのだろう。
「あやつの働きもあり、敵は撃退できたものの、ボルデーの町は正に地獄絵図よ。かなりの一般市民が犠牲となった。あやつの妻子も犠牲になったのだ」
 何ということだろう。マキナルにそういう過去があったのだ。
「恐らくはそのことが原因で人攫いの片棒を担ぐようになったに違いない。哀れな奴よ」
 かなりの腕前だった。かなり修行をしたに違いない。家族を守るために剣を振るったのだろう。しかし、結果的に家族を死なせてしまった。自分だったら、どうしただろう。やはり、自暴自棄になり、山賊にでもなるのだろうか。
「だが、騎士を名乗る以上は、それを乗り越えねばならぬ。厳しいようだが、あやつはそれが出来なかった」
 騎士とはそこまでの修練が必要なものなのか。そこまでして目指すべきものなのか。マキナルの立場に立てば、自暴自棄になるのも仕方ないように思える、何故か、ディーンは先程まで命を賭して闘った相手に同情を覚えた。逆にサルフルムの言うことは厳しすぎるのではないか。
「ディーンよ、マキナルは諦めてはおらぬぞ。必ずお前の前に姿を現すだろう。その時は必ずどちらかが死ぬことになる」
 ディーンはゴクっと息を呑む。確かにあの男は異常な程の執念を持っていた。去り際に、必ず決着を着けると言っていたことを思い出す。
「あやつは家族を失ったことで、自分自身も見失ってしまったが、騎士のプライドだけは捨ててはおらぬようだ。厄介な相手ぞ。しかし、お主を認めたからこそ、騎士のブライドを掛けた決闘をしたとも言える。あやつの魂を解き放つことが出来るのはお前だけだ。ディーン、必ず勝て。しかし、今のままでは勝てない。お主の足りぬものは父親に聞くが良い」
 トラルは何も言わなかったが、目が頷いていた。
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