第18話
文字数 1,015文字
互いに子供の頃からのダンサー仲間だったので樹里が健人に異性を感じることなどは全く無かったのだが、健人は違っていたらしく、ある日突然、「俺と付き合わへんか・・」と告白された時は驚くと云うよりは唖然としたのが正直な樹里の感情だった。当然、一旦は断ったのだが最終的には健人の粘り勝ちと云うか樹里が根負けした感じで交際がスタートした。
さて、付き合い始めたのは良いのだが二人の交際は徹頭徹尾密かな交際となっていく。
同じスタジオの仲間や後輩達はもちろん。樹里の高校の友人たちにも交際がバレない様に細心
の注意が払われることとなったのだ。
何故、そんな不健全な交際となったのか?
その原因はズバリ! 樹里の母である真弓の存在に他ならない。
「先生には、俺からちゃんとお付き合いしていることを伝えなアカン。間違っても他の人から先生に伝わるんわ・・そ・それは最悪や・・」と、念仏を唱えるかの様に毎回同じ言葉を繰り返しては最後に決まって、「先生に言うのは、もうちょっと様子を見てからやな」と、これまた呪文の様に、否、自分に言い聞かせるように唸っている。
(要は・・オカンが怖いだけのことやん。そんなに怖いんなら、何でウチと付き合おうと思って迫って来はるわけ?
売れっ子芸能人同士のカップルやあるまいし。何で半年近くも人目を避けてバレん様に付き合わなアカンねん。アホらしぃ。ウチのオカンから逃げ回ってるだけにしか見えんわ。あ~ぁ情けないヤツ・・)
そのくせ、未だに許してはいないものの。
いっちょまえに濃厚接触だけは求めて来ることも樹里には気に食わない。
(そこだけはいっちょまえなんや・・アホか・・)
4歳も年上の健人に対して、こんな気持ちに襲われてはイライラするのが、ピチピチ17歳女子高生・樹里の最近の精神的ルーティーンとなっていて憂鬱な気分と云うか悩みの種ともなっている。
そこに来て、オカンの変化と云う気掛かりがまた一つ増えたと樹里は半ば呆れ気味に感じている。
(・・胸騒ぎがする・・)
今回のこのイベントはどうやらそうそう簡単なものではないのかもしれない・・今まで経験したことのない大人たちの熱量と云うかウザいくらいのやる気やオカンの張り切りようを目の当たりにしている樹里は、(こりゃぁ・・えらいことになるかも・・)と感じ始めている。
そう・・実に冷静な女子高生である・・。