第84話
文字数 851文字
当然、発射と云っても空砲なのだが。
そもそも、この演武は順子の当初の構想にはなかったのだが、この道明寺合戦まつりの評判を聞きつけた難波鉄砲隊から出演希望が来てプログラムに入った経緯がある。
まぁ、彼らにしてみれば、これほど自身たちの演武を披露するのに相応しい機会は他には見当たらないと云った具合なのだろう。
しかし、実現の為の作業は竹田と順子を大いに悩ませたし時間を費やしたのだった。
何と言っても・・実銃なのだから。
空砲とは言え、その許可から何からの手続きが煩雑で、且つ、カウンターパート、つまり交渉相手が警察やら公安委員会だったりするのだから大変。
順子たちエンタメ業界が最も苦手とする相手なのだ。
そう、ノリだけでは動かない方々である。
その為、林田、竹田、順子などは幾度となくそれら当局へ出向き難解な手続きやら説明を繰り返してようやく戴いた許可のもとでの本日だったりする。
しかも、本日はその当局の方々も数人、定められている実銃の取り扱い手順や手続きなどを監督・指導する為にこの会場に来て目を光らせて居る。
不安にならないハズがない。
一つでも間違いが在れば一発アウト!
最悪の場合はイベント自体が中止に追い込まれかねない品物・演武と云える。
(何も実銃じゃなくてモデルガンでヨカッタのヨ。何かあったらどうすんのヨ。頼むから何事もなく終わってちょうだい)
等と不安やら愚痴やらを想い巡らせながら向かってステージの左側、業界用語で云う下手側に張られている陣幕前の少し離れた所、丁度ステージと観客を見渡せる位置にブランド物のデニムに、まつりのスタッフTシャツにハイカットのスニーカー、そしてプラニング・ミューのスタッフジャンパーにトランシーバーのスピーカーマイクセットを付けた現場スタイルに身を包み鋭い視線で状況を見守っている順子の目に、ふと、その順子の右斜め辺りを歩いている鳩が目に入って来た。