第40話
文字数 935文字
と、案の定芳本が竹田に噛みつくように問い質す。
竹田は座ったままだが目を開け芳本を見据え、「本番日まであと二週間余りのこの段階での交代は懲罰の意味が前面に出るし、何より一度任せたからには、芳本君が指摘する部分も含めて我々が導いたるんが大切なんとちゃうか。今、役を代えてまつりや道明寺交響曲の体裁を整えることより、健人の成長を我々が導き助けるんが、このまつりや健人の為にもなると思う。見捨てるんは簡単なことやし。俺はこのまつりの為にも成らんし違うと思う」
「僕は何も見捨てるとは言うてませんよ。彼には荷が重いんとちゃうかと言ってるんですわ」と芳本が反論すると、竹田は間髪入れずに、「言葉は綺麗やけど。俺には見捨てるとしか・・否、切り捨てるんのと同じ様に聞こえるけどな」
「その言い方はちょっと人聞きが悪いんとちゃいます」と席から立ち上がる芳本。
竹田は座ったままだが眼光鋭く芳本を睨みつけたままで、「桜田さんが説明した通りで。
このまつりに参加する人たちには、アカデミー賞の男優賞や女優賞は必要ないんや。参加して楽しい思い出にして貰うんが一番大切なことやと思う。気合が足らなんだら俺らが気合を入れたったらエエことだけや。違うか」。
「そうかもしれんけど。僕は山西くんにはもっと後藤又兵衛を演じることに誇りを持って欲しいと言うとるんです」。
と芳本が言うと、「そこやがな」と被せるように竹田が言った。
「なにがですか?」
「その芳本君の後藤又兵衛への思い入れは、出演者からすれば熱過ぎるんとちゃうかな。
それぞれに思い入れがあるんは仕方ない。しかし、それを人に押し付けるんは違うんとちゃうか」
「押し付ける。僕がいつ押し付けた言うんですか」
そこからの竹田と芳本の口論は、声のトーンが上がり互いの鬱憤や溜まりに溜まった不満のぶつけ合いの様相となり掴み合い寸前の状況となった。
そんな状況の中、順子は自身のサジ加減の間違いから起きてしまったこの状況に対して強烈な自己嫌悪に陥っていた。
(細心の注意を払ってきたつもりなのに結局、私がパンドラの箱を開けてしまった)
二人の怒声が飛び交う中で順子は魂が抜けた様にその場に身を置いて居るだけだった。