第81話
文字数 1,053文字
まるで武将の出陣メシと云った具合である。
実は、このメニューと朝食スタイルは昨年のまつりの本番日と同じで、大事の日における竹田夫妻の大切な儀式・勝負メシなのだ。
そんな料理を前に竹田は感慨に耽っていた。
(今年は確かな手応えがある。それでも不安は尽けへんけど。昨年のそれとは全く違う。今年は自分たちがこれから何をしなければならないのかが一から十まで明白やし。
桜田ちゃんらが創ってくれたステージ進行台本や運営マニュアル台本も全て頭に入っている。
そう、万全や。
それにしても桜田ちゃんたちの準備・推進の手際の良さは流石にプロやし、彼女らのプロとしての矜持を感じる。何より俺たちにも解り易かった。
そう言った意味では、俺の目に間違いはなかったっちゅうことや。オレ、冴えてるやん!ナイス!誰か褒めたって・・)
と自画自賛気味に思っていると。妻のジュンちゃんが温めた味噌汁の椀を置きながら、「ヨォ~頑張ったね、惚れ直したわ。さぁ、泣いても笑ろても今日が最後。たんと気張ってや」と、心の中を見透かしているかの様に言った。
竹田もその勘の鋭さにドギマギしつつ、「オ・オゥ!任しとけ。ホナ、いただくわ」と手を合わせて精一杯動揺を隠しつつ食事をとり始めた。まぁ、出陣メシと云っても戦国武将なら静かに、そしてお殿様らしく優雅に食べるのだろうが。そこはまるで体育会系の学生さんがガッツク様に食べだす竹田。
しかしそんな亭主のややもすると行儀の良くない食事スタイルですらジュンちゃんは、(そういうトコ・好きやで)と心の中で呟いている。
この夫婦、まさに、ベストカップルなり!
またまた同じ頃、
林田は静寂に包まれた道明寺天満宮・本殿に一人で参拝をしていた。これは本番日だからと云うことではなく。林田の日課と云うか一日の始まりのルーティンである。
しかし、やはりいつもとは違い。既に自作の甲冑を身に纏っての参拝だったりする。
その姿はまるで戦国武将が出陣前に神仏に願をかけている様に見えなくもない。
この日、この町・道明寺では。あっちこっちで大小様々なタイムスリップの様な人々のハレの日、大事の日のルーティンが繰り広げられているのだろう。
やはりケッタイな町である。