第50話
文字数 778文字
あの大きな勘違いの渦の中で行われた稽古の翌日に開かれた会議で、戸惑った表情の大川が順子に尋ねた。
「大川さんが当初企画した道明寺天満宮や道明寺のライトアップには到底及びませんけど、
小型のソーラーライトを350個確保する目途がついたので。せめて天満宮境内、特に参道の両側に設置してライトアップ出来ないものかと思いまして」と順子が話している途中から、大川の表情が誰の目にも柔和になっていくのが見て取れた。
「本当にせめて、と云う感じではあるんですけど。どうでしょう?それらのソーラーライトの設置などの采配を大川さんにお願い出来ないかなぁと思っているのですが」
すると林田が、「大川さん。どうでっしゃろ。やってみはっては」と、大川の背中を押すように言った。
事の次第はこの会議の二日前に遡る。
大阪市内の順子たちの事務所で進行スタッフとの打合せを終えた辺りから竹原が何か言いたそうにしているのを順子は察していた。
そして暫くして、そんな竹原が意を決して順子に相談を持ち掛けた事から始まったのである。
「小型のソーラーライト350個が、しめて3万円・・」と順子が言うと、「は・はい」と、小動物化し始めていた竹原が返した。
「何処で見つけて来たの?」
「以前別の現場で取引が在った岡山県の業者さんでして。今回、在庫が在るので安くして貰えるそうなんです。ど・どうでしょうか」と震えた声なのだが、その表情は必死に何かを訴えようとするそれだった。
「探してたんだ」
「あっ、はい。そのぉ、余計なことかなぁとは思ったんですけど。どうしても大川さんの想いも解っちゃうもんですから。何とか出来ないものかと思いまして。す・すみません。やっぱり、余計な事ですよね」
と言うと微生物へと退化し始めた竹原を順子は無言で見詰めながら考えていた。