第47話
文字数 527文字
唖然とした表情の順子の視線の先には、その魔法にかけられたかもしれない人物の姿が捉えら
れていた。
道明寺交響曲の稽古のこの日、その場に居合わせた人々は順子と同様に異様な光景と雰
囲気に覆われて居た。その原因の主とは、覚醒なのか、それとも何かの魔法にかけられたのかは
分らないが明らかに今までとは違ったモチベーションで稽古に励んでいる山西健人その人である。
竹田の説明によると、二日前に健人と数人のメインキャストを引き連れて隣の柏原市に在る柏
原市立玉手山公園に赴いて気合を入れた結果、山西健人を覚醒させられたのだと云う。
この柏原市立玉手山公園とは、その昔、徳川と豊臣両軍が激突し闘った大坂夏の陣での道明寺
の戦いにおいて、後藤又兵衛基次が陣を敷いた場所であり、今では両軍の戦死者の供養塔とこの
地で戦死した後藤又兵衛基次之碑が建てられて居る。
その両所を訪ねることで健人を始めとするメインキャストのメンバー達に対し、この地の歴史的背景はもとより。戦いの舞台となったこの地域の人々の苦しみや想いの数々を伝えることによって、現在の大人たちの想いや若い世代が戸惑う熱量への理解を深め合ったのだと満足気に竹田が語っていた。