第87話
文字数 730文字
つい先ほど出番が次の団体から事前に預かっていたCD音源が見当たらないと進行スタッフが慌て出し、その事を思い出した竹原が石川会場からスタッフルームの在る道明寺会館へと走り出していたのだ。距離は約250メートル、往復で500メートルちょっと。
ワガママボディの竹原だと次のプログラム迄の残り15分ほどで間に合うかどうか際どい状況と云えた。
(何とか間に合わせなくちゃ。でないと、順子さんにドヤサれるどころじゃないぞ。しかし、以前にもこんな事なかったっけ?)
等と考えながらひたすらそのワガママボディを揺らしながら走っている竹原なのだが、彼が取りに行くより若いスタッフに指示して走らせた方が合理的なのは明白だったりする。
しかし、彼の性格というか癖というか。
何かトラブルが発生すると条件反射的に自身が真っ先に行動してしまうのだった。
正に由緒正しきパブロフの犬くんだったりする。
そう云うワケで竹原は走って居る。しかしこのペースだと間に合わないだろうと彼自身が考え始めたその時。彼の横を田山が猛スピードで走り抜きつつ、「会館のスタッフルームですよね。絶対間に合わせますんで竹原さんは戻っててください」と颯爽と走り去って行った。
走り抜かれた竹原は、その場で足踏みを始めて、「た・頼むね・・」と、誰にも届かないであろう声のトーンで言うと。そのまま回れ右をして小走りで石川会場へと戻って行った。
その様子は“無”そのものだったりする。
人は自分の限界を知った時に傷付かない為にそんな風になるのかもしれない。
ガンバレ!竹原!