第88話
文字数 913文字
等と若干の不満を抱きつつ竹田はバックステージ内を急ぎ足で歩いていた。そして難波鉄砲隊専用の控えテント前に差し掛かった辺りでとある違和感を覚え立ち止まる。
この難波鉄砲隊の控えテント前には二人の民間警備員が立って警備に当たって居る。
これも当局からの強い指示によるものなのだが、何せ扱っている品物が実銃なのだから当然だったりする。のだが、竹田が感じた違和感の正体はそこではない。
そう、テント内に誰も居ないのだ。
やはり当局からの強~いお達しに、常時、テント前には最低二人の警備員の配置はもちろんだが、テント内にも銃の所持免許を持っている関係者が最低二人は常駐して銃の厳正な管理・保管を適正に行わなければならない事になって居た・ハズなのだが。
テント内には誰も居ない・・何故?
竹田は恐る恐るテントに近づき中を覗き込んだが。やっぱり、誰も居ない。
それどころか、テーブルの上にケースに収められていなければならないはずの火縄銃が一丁、無造作に置かれているではないか。
この状況の中で竹田の頭の中には一つのフレーズが現れた。「イベント中止」このフレーズが徐々に頭の中で膨らみパニック状態に陥るのを必死に堪えた竹田は両サイドの警備員の二人に交互に顔を向け務めて冷静に尋ねた。
「此処の人たちは?何処行ったんやろか?」
すると少し年配の方の警備員が、実に穏やかな口調で、「はい、間もなく道明寺交響曲が始まるとか言うて、ステージの方へ皆さん行ってしまいましたわ」。と云うと実に穏やかな表情で微笑んだ。
「あぁぁ~そうでっか?」と竹田は言ったものの、その胸中は既に嵐が吹き荒れている。
(行ってしまいましたわ。じゃなくて。君たちそれ止めんかいな)
奇妙な沈黙が三人を包み込んでいると、後ろの方から、「どないしたんや竹ちゃん」と聞き覚えのある声がし慌てて竹田が振り向くと。
そこには当局のお一人であり、竹田の本件におけるカウンターパートとして幾度となく交渉やら指導を受けた藤井寺警察署・警備課の山村透(やまむらとおる)警部が立って居るではないか。