第66話
文字数 615文字
そして、当の野本樹里は病院から戻って来たばかりの様子で、その姿は想像していた以上に事の深刻さを浮き彫りにしていた。
右足首には包帯が巻かれ、右腕の肘の辺りにも湿布が貼られ顔も二か所ほど傷ついて絆創膏が貼られている。見るからに痛々しい姿に加え。この賢い女子高生は、自身の怪我による事の重大さにも気づいていて意気消沈、或いは茫然自失と云った感じで随分と泣いたのであろう・・目も腫れている。
母親の野本真弓の説明によると。自転車で買い物に出かけた折に自動車と接触して激しく転倒してしまったのだそうだ。そして警察からの説明では明らかに樹里には落ち度はなく自動車を運転していた者の不注意による事故だという。
「樹里ちゃん、大丈夫?」
と樹里に声をかけながら順子は、(出来るなら。その運転手を蹴り上げて自転車でいいから二・三回轢いてやりたい)
そう、えらく荒んだ想いに駆られている。
しかしこの順子の荒んだ想いは恐らくその場に居る大人たち、少なくとも母親の真弓と竹田などは共通した思いだろう。
俯いてすすり泣いている樹里の姿にいたたまれなくなったのか竹田は外に出てタバコを無言で吹かしつつ、(四日後やぞ。樹里以外で千姫を演じられる娘が他に居るのか? いや、いくら何でも無理やろう。あぁ~シバきたい!そのドライバー、シバキ倒したい!)
これまたえらく荒んでいる。