第85話
文字数 820文字
(な・なに???)
愕然とする順子。恐らく瞳孔が開いて固まってしまっている。そして頭の中では、
(当たったの・・空砲でしょう? 弾、出たの? ウソでしょ!これってイベント中止・・
なんなら事故物件・・イヤイヤ今夜のトップニュースかぁ)とパニック状態になっている。
それでも順子はどうにか、“ソォ~っと”視線だけを観客に向けた。すると・・歴史行列隊の面々も観客も皆、この演出に満足して悦び笑顔で拍手をしている。そう、誰一人鳩の様子に気づいていない様子だった。
次に順子は自分の両サイドに陣取っている関係者の中に居る当局の方々に視線を“ソォ~っと”向けて様子を窺ってみると。
どうやらその方々も鳩の悲劇を見ていなかったらしく無表情でステージを凝視している様子だ。
(どうやら、誰も気づいてないみたいだし実弾は発射されてないみたいだけど・・だとしたら、何故?)
と必死に動揺を抑えつつ再び鳩を見る順子。
すると・・倒れていた鳩の首が僅かに前後に動いたかと思うと、次の瞬間、何とスクッっと立ち上がって何事もなかったかのようにゆっくりと歩き出して行ってしまった。
唖然と見ている順子だが咄嗟に、(せめて・・飛んで逃げろヨ)と思った瞬間。
無意識に息を止めていたせいか突拍子もない声と共に息を吐き出し腰が砕けそうになった。
どうにか踏み止まり荒い息を整えながら、(あ、あの鳩・・ば・爆音に驚いて気絶したのか?・・まさか鉄砲音に反応して、し・死んだふりしたの? こ・この際どっちでもいい。今度会ったら平和の象徴だろうが構わない。石、ぶつけてやる)
とやり場のない怒りに包まれている。
が、彼女の小さな復讐は遂げられることはない。なぜなら、鳩など見分けがつくわけがない。
とても残念・・・。