第62話
文字数 986文字
今回のミスをちゃんと受け止めて次に生かさなくちゃね。僕も含めてだし、それこそ順子さんも自分自身の反省として必要だと考える人だから。これまでもそうして来たしね」と言った。
そんな竹原の言葉を聞きながら田山もまた今回のミスについて真正面から向き合い始めていた。と同時に、今まで感じていなかったイベント人としての竹原の器量や能力について考え出してもいた。
確かに、竹原の人の善さや優しく穏やかな性格は解っていたし、大いに助けられて来たとも思っていた。しかし今回のトラブル処理を間近で見たことで竹原のこれまでの印象や評価が自分の中で変わり始めていることに気づき始めたのだ。
(もしかしたら・・この人は凄いイベンターなのかもしれない・・)
元々、縁の下の力持ち的な存在としての竹原の評価は決して低いものではなかった。
しかし、それはイベンターのそれとは違う事務的なイメージに過ぎなかったのだが、今回の竹原の行動の全てを間近で見ていると、そのトラブル処理への対応能力にチームを的確に差配する能力。そして何より関わる人々全てに与える安心感は秀逸と田山は思い始めている。
そしてこのことは、実は順子が誰よりも速く本能的に気づいていたのかもしれない。
その能力の高さ故、順子はややもすると後先考えずに突っ走るきらいがある。そんな順子がトッチラかした道を後ろから丁寧に整理して追いかけ続ける竹原は一流のイベンターなのかもしれない。
それに、こう云ったトラブル処理を竹原自身は実に楽しそうに行なっている節が見向けられる。そもそもイベント業界に携わる人の性みたいな所に、イレギュラーやトラブルが発生した時にこそ目が輝き、力を発揮する人が居る。寧ろ、秘かに其処に自身の存在意義を見出している人
すら居たりもする。
そしてそんなトラブル処理能力の高さがイベント人の評価ともなったりするのだ。
田山は今回のトラブルへの対応の渦中で、竹原がまさにそんな評価に値するイベンターで、最高のトラブルバスターにさえ思えてきている。
そんな想いに駆られている田山をよそに、助手席で竹原は何となく困った表情を作りながら、その実イキイキとした面持ちで次の対応を「ブツブツ」と独り言を呟きながら見方によっては楽しそうに行っている。