第15話
文字数 989文字
その中には、道明寺交響曲の千姫役に選ばれた野本樹里の母親で、後藤又兵衛役の山西健人が通うダンススタジオ、スタジオ・モッズの主宰者である野本真弓(のもと まゆみ=40歳)の姿も・・・。
特に彼女は以前から深大寺創建をリスペクトしていたらしく。その視線は羨望の眼差しと云った具合だった。
余談だが、この日の初顔合わせでは案の定、林田や竹田ら道明寺まちづくり協議会の面々や、集まっていた全ての人が深大寺のお姉口調に圧倒され面食らっていたのは言うまでもない。
まあ、そこまでは順子の想定の範囲内だったのだが、それ以降、深大寺創建はこのまつりのメインテーマや道明寺の戦いの背景。そして道明寺交響曲の意義や狙い。
そしてそしてまつりに対する心構えや想いについて一方的に話すばかりで、まるで深大寺創建独演会の様相を呈してしまったのだった。
しかし順子はその光景に戸惑いつつも不思議な感覚を感じていた。と云うのも。その場に居合わせた面々のほとんどが、深大寺創建の話に聞き入って、何なら感動して居る人だって大勢いたことだった。
このことからも深大寺創建には不思議な魅力というか、妙に人に安心感を持たせる能力と魅力が備わっている。と、薄々順子も感じ始めていた。
にしても、その日はそれだけで終始し何一つ具体的な振付は施されずに終了となったのである。
(あと4回の稽古で大丈夫なの?)
深大寺と初めて会った帰りの電車内で竹原が言った、「大丈夫かなぁ・・」が耳鳴りの様に順子の頭の中でリピートされ始めた。
と同時に不安と焦燥感が一気に襲って来たのだった。
そんな二つの心配事をあれやこれやと思い巡らせている順子だったが・・ふと、別の回路が働き出した。
(ところで、誰が大川さんの首に鈴を付けるの・・?)
もう一方の深大寺創建への対処は、当然、自分が行なわなければならない。これは当然のこととして、今回の‘大川さんの乱’は自分が矢面に立つわけにはいかない。
(否・・絶対に嫌だ)とすると・・
等と考えていると竹田が、「何にせよ。誰かが大川さんに今回の提案を諦めて貰う様に説得せなアカンやろな」と核心を突く発言をした。
(来たぁ・・)と順子は思った。