第71話
文字数 830文字
既に、会場となる石川河川敷にはステージが組まれ。出展ブースなどのテント張りの作業が着々と進められている。
そんな中、本番前日にして最後となる道明寺交響曲の全体稽古と言う緊張感もさることながら。樹里が怪我をしたにもかかわらず道明寺交響曲への出演を強行することがその異様な緊張感を増幅させていることは間違いなかった。
特に、サイレント芝居に出演する主要メンバーは、この日の二日前に緊急招集され一連の状況と決定が説明されていたのだ。
その説明会の折に竹田は、桜田まさみ(順子)、真弓、樹里らの全く迷いのない皆に対する説明ぶりを目の当たりにして、
(腹を括った女っちゅうのはホンマ、ウチのジュンちゃんもそうやが・・やっぱり強いのぉ・・)と改めて女性の強さや凄みをしみじみと感じさせられていた。
そしてもう一人、この事態に素早く動いた人物が居た。
樹里が事故で怪我を負ったにも拘らず強い意志で出演をする旨を聞いた深大寺創建だ。
急遽サイレント芝居の出演者たちへの説明を行う為に皆を招集することを提案し、その場で樹里の負担を少しでも軽くする目的でフォーメーションの変更を自ら手取り足取りで稽古を付けたのだった。
恐らくは桜田まさみと綿密な打合せを行ったうえで、素人の出演者全員が呑みこみ易いフォーメーションを考え抜いたのだと竹田は感じた。
それにその見事なまでに変更されたフォーメーションもさることながら稽古の付け方には居合わせた竹田を始めとする関係者たちを圧倒させるものだったのだ。
(流石やな。プロの仕事っちゅうもんわ。こうと決めたら何が何でも実行する。プロデューサーとしての桜田ちゃんのアクシデントに対する対応処理能力に、深大寺さんの臨機応変な演出能力。どちらも流石やしエエもんを見せて貰(もろ)たわ。)
今回だけは竹田らが出る幕はなかった。
そう、只、見守るだけだったのだ。