第28話
文字数 1,314文字
順子は不意を突かれたのか、「あっ・・いや、どうしました?」と答えるのが精一杯で、そんな順子を見透かした様に野本真弓は、
「この町の人々はな。まあ、よく言えば、それぞれに拘りを持って町を愛して。そして、誇りを持って生きてはるんよ。そんでもって少しでもこの町の良さを世間に知って貰いたいし、少しでも町の発展を願って色々と行動してはる」。
「はぁ・・?」
「そやけど空回りも多いし。我が強過ぎてヨソの考えや価値観みたいなモノに、なかなか馴染むんに時間が掛かってしまいがちなんよ」。
「そ、そうなんですね。我が強いかどうかは別として。思い入れと云うか、それぞれの価値観が強いのは確かだと思います・・」。
と言いながらも、自分だってそんな部分があると順子は思った。しかし、この野本真弓さんは何が言いたいのだろうと考え始めた順子に畳みかけるように真弓は、
「そやろ。そやからそんな人々を相手にするんは大変やろなぁと思うわ」
(ひょっとして、慰めてくれようとしているのか・・な?)と、戸惑った表情の順子に答えを求めるつもりがないのか真弓は言葉を速射砲のように続ける。
「私も自分のスタジオ・モッズで小さなイベントなんかをプロデュースしたりするんやけど。
そんな時、他のダンススクールの先生やら町の人との交渉の時に自分自身に言い聞かせてることがあるねん。何やと思う?」
「な・なんでしょう?」と言いつつ、興味深いと思った順子にニヤリと不敵な笑みを浮かべた真弓は、「それはな。自分は相手より強い信念を持っていると自分に言い聞かせて、そして自分を信じ込んでオッサン達と向き合うことやねん」。
「・・・」
「要するに、強い信念は強情に勝る。ちゅことやわ」
この言葉に順子は“ハッ”とする思いがした。決して自分の信念が弱いなどとは思わないが。
何処か揺らいでいたことは間違いない気がしたからだ。自分が思い描いた通りには行かない事が多いのはどんな仕事でも常である。
しかし、この道明寺でのイベントは今までとは何処か勝手が違うことが次々と起る為か、今までのキャリアが通じない気がして自信を失いかけ、いつの間にかクセ者達に翻弄されている。
そう、野本真弓に指摘されている通り。自信或いは信念が揺らぎ始めていたのかもしれない・・・。
(それにしても・・強い信念は強情に勝る。って、この人はこれまでどんな想いでこの町で暮らして活動して来たんだろ・・)と考えながら順子は、「野本さんも、色々と大変な想いをされてらっしゃったんですね」と言うと真弓も、「まあね。自然に鍛えられるわ。お陰でここのところ女を忘れてたし」
(ここは笑うところか?)
と苦笑した順子につられる様に真弓も苦笑しながら、「これでもちょっと気張ればなかなかなんヨ。脱いだらスンゴイやから」と、言うや否や“ケタケタケタ”と笑い出したので順子も愛想笑いをするが・・、
(流石・・ナニワのネエちゃんだわ)
と、思った瞬間様々な生活音が耳に入って来たかと思うと、不思議と落ち着いたのか冷静な思
考を取り戻すことが出来たようにも感じた。