第69話
文字数 841文字
不思議なくらい千姫にのめり込んでる私が居るんです。まるで千姫と同化して行く様な。
だからかなぁ・・ここで千姫とこんな形で別れたくない。強くそう思うんです」
樹里の言葉は徐々に涙声になっている。
そして偽らざる想いを聞いていた大人たちは若干十七歳の女子高生に圧倒され始めていた。
「こんな気持ちに成ったのは。生まれて初めてやし。だから、我儘かもしれへんけど。
こんな形で彼女と別れてしもたら、私は一生後悔すると思います。今は、後先考えたくない。
例え今無理してダンサーとして活動出来なくなった後悔よりも、ちゃんと千姫と別れられなかった方が間違いなく後悔すると思う。
だからお願いです。最後までちゃんと、千姫と向き合わせて下さい。そしてちゃんと彼女とお別れさせて下さい。決して迷惑はかけません。だからお願いです」
樹里の涙声での鬼気迫る訴えはそこで途切れ。すすり泣く声だけがその場を覆った。
竹原と父親の武は既に目からウロコがしこたま滴り落ちている。林田は腕を組んで目を閉じたまま微動だにしないが、その様子は感動に包まれている様子だ。そして竹田はと云うと、やはり沽券云々の問題なのだろうか。
壁に向いて黙り込んで居る。そこに窓でも在れば外に目をやり思考に耽る何かの刑事ドラマのボスと云った具合なのだが、如何せん窓が無い。そう、ちょっぴり残念な姿に見える。
そしてそして、ゴジラとキングギドラはと云うと。幼虫のモスラが吐く糸にスッポりと巻きつかれて繭と化し身動きが取れない状態となっている。