第48話
文字数 1,034文字
真剣に向き合えば心が通じ合うんやな。ホンマ、良かった。今晩の酒は、さぞかし旨かろう・・)と悦に入っている。
そんな竹田の横で、同じく山西健人の豹変ぶりに目を丸くしていた芳本も、(竹さんが正しかったんかもしれないな。にしても、皆をあそこに連れて行くなら行くで何で僕を誘わんのや。
僕の話の方がより深く伝わった筈やのに。来年からは僕が皆を連れて行かなアカンなぁ。
否、絶対そうしよう・・)と考えている。
そしてもう一人、健人の師匠であり秘かにヤキモキしていた野本真弓は、(竹田さんのファインプレーやわ。ホンマ、今日も同じ様な感じやったら。今夜あたり夜通し説教したろかと考えてたけど。この様子やと大丈夫そうや。無理からに押し込んだ手前。ホンマにヒヤヒヤしたわ)と、安堵の表情を浮かべつつ健人らの稽古を見詰めていた。
そして順子は、
(それにしても、こうも変わるか?それともこの町で生まれ育った者のDNAの為せる業なのかしら・・とすると、この若者たちもいずれは林田さん、竹田さん、芳本さんに大川さんや嘉山さん。そんでもって野本の姐さんみたいに成ると云う事か・・何だろう、兎に角恐るべし藤井寺、道明寺って感じだわ)と、半ば呆れ気味で健人を見詰めていた。
そんな大人たちの戸惑いや感動の対象となっている健人なのだが。実は彼の覚醒・豹変には大人たちの想いとは全く違った所にその理由があったりする。
そして、その理由に薄々勘づいて、とても冷静な目で健人を見詰める視線が在った。
その視線の主とは誰よりも健人の性格を知り一度は彼のモチベーションを奈落の底に叩き落し
た張本人・・そう野本樹里だ。
(何処までも姑息なヤツだわ)
と、こちらは完全に呆れた表情で健人を見ている。
そんな樹里が見抜いている健人覚醒の本当の理由とは・・
実は、二日前の玉手山公園訪問の後、竹田は一党を率いて馴染みの居酒屋で食事会も催して
居て樹里も参加していたのだった。
そんな宴で酔いが回った竹田が健人にした話が彼を覚醒させた本当の理由である事を樹里は
目撃し理解している。
ではその話の内容とは一体どの様なモノだったのか。実は話した竹田ですら覚えていないくらい薄い話なのだが。その時の健人にとってはどんなドーピング剤にも勝るものだった。