第78話
文字数 1,000文字
残された樹里は気まずい空気に包まれるが、健人はそんな空気感など歯牙にもかけず樹里に近づくと、これまたぶっきら棒な口調で目線は十二時の方向に向けたまま言った。
「明日心配すな。もし、樹里が倒れたら・・そん時は、俺が助けに行ったるから」
「それ、おかしいやろ?千姫が倒れたら普通、夫の秀頼さんが駆け寄って助けるやろ」
「そ・そうかもしれん・・けど。明日は後藤又兵衛が助けに行く!」
「話が繋がれへんやん」
「そ・それやったら。後藤又兵衛は千姫に首ったけ、ちゅうことにしたらエエんや。それやったら繋がるやろ」
余りに呆れて声も出ない樹里。
「と・とにかく。明日は何があっても、俺が樹里を守るから・・なんも心配せぇへんでエエから・・まあ、そう言うコッチャ」
(どういうコッチャ??)
と呆れつつ固まっている樹里の返事など聞かなくともケッコウと云わんばかりに健人は背を向けて歩き出したかと思うと、再び樹里に向き直して、「俺が居る!心配すな!」
と言うや否や再び歩き出して去って行ってしまった。
そんな健人を見送りながら樹里は思った。
(今度はアイツが頭痛の種か・・まあ、心配してくれるんは嬉しいけど・・とにかく明日は足首がどうなろうと倒れるワケにはいかないな。もしもの時はさゆ姉に頼ろう。
そうしないとアッチコッチヘンな事になりそうや・・)
恐らく健人の想いとは全く違った意味で、ややもすると不安や弱音が覆っていた樹里の闘志に火がついた事だけは間違いなさそうである。そんな本番前日の夕暮れ時だった。
【読者の皆様へ・・】
10月から投稿を始めさせていただいた「道明寺交響曲」をご愛読いただき誠にありがとうございます。
物語もいよいよ佳境に差し掛かる中、年末年始を迎えることとなりました。
此処までご愛読頂きまして感謝申し上げます。
さて、明日31日から3日までの年末年始の期間は投稿をお休みさせて頂き、年明け4日から投稿を再開させて貰います。
新しい年も今しばらくのお付き合いをお願い申し上げます。
それでは皆さま、良いお年をお迎えください。
中川靖章