第30話
文字数 1,319文字
そんな岩下志麻姐さんならぬ野本真弓姐さんの次の言葉に順子は痺れさせられ救われる。
「そもそも深大寺先生はあんたを信じたからこそ、このイベントを引き受けて参加してくれてはるんやで。私らダンスや踊りの世界に関わる者にとって、同じ空間で共に創作活動が出来るなんて夢のようなんやから。そんな夢のような機会を創ってくれたあんたには、ホンマに感謝してるんや。それに竹田さんや林田さんかて、こんな壮大で、あの人たちが如何にも好む企画を立ててくれたあんたに感謝してはるのが私には解る。なんせ、昨年とは全く違うイキイキとした子供の様な表情で取り組んではるのが、アホとちゃうかと思うくらい見て取れるわ。産みの苦しみも含めて・・ウン、楽しんではるわ」。
「昨年は、そんなに大変だったんですか?」
「そりゃぁ、ド素人の集団が右も左も解らんままに勢いでスタートさせたんやから。大変と云うか。船頭が多過ぎてなにかとな・・もう、シッチャカメッチャカやったわ。あの竹田さんが愚痴しか云うてなかったし、林田さんなんかは人目のない所でよう肩落としてはったしな」
「そ・そんなに・・」
「そうや。それと比べたら今年はあの二人はもちろんやけど、他の面々も私たち参加する者たちも張り切り方が全然違うし、なにより自分たちが何をやるべきなのかが解って各自が行動してる。充実感ハンパないで」
「姐さ・否、野本さんもですか?」
「そうやなぁ・・私ら町のダンススタジオを経営している者からすれば、生徒や教え子たちの日頃の練習の成果を発表出来る機会や場所が在ること自体が有難いし感謝やから、こう云うイベントは否応なしに張り切るし、主催者やプロデューサーが、どんなに地獄に片足突っ込んで苦しんではっても関係なく与えられたステージの時間内でパフォーマンスさせて貰うだけやね。そやから大概の参加したイベント現場を俯瞰で観ていられるから良いも悪いもヨォ~見えるわな」
(こ・怖・・出演者って、ある意味一番冷静で客観視していたのか。その分、問題の本質が理解出来るわけだ。ある意味、私たち側にとって一番怖い存在なのかも・・・)
等と考えていると真弓が意外なことを言い出し始める。
「そやけど、このイベントは今までとはチョット違う気持ちでウチは臨んでるかもやな」
「それは、道明寺交響曲の構成と振付の一部を担当してるからですか?」。
「まぁ、それもあるけど・・やっぱり、深大寺先生と一緒に創作活動が出来ることが大きいかな・・」
心なしか真弓の表情が姐さんから少女の様な表情に変化した気がして悪感を感じ戸惑う順子。
そんな順子の視線など、まったく眼中に、「ありません」と云わんばかりの真弓は何故か“ウットリ”としたかの様な表情を浮かべ始め自分の世界に入り込んでしまった様に、「あの、深大寺創建とやで・・同じ空間に居て、そればかりか言葉を交わしてるんやで・・そりゃ、あんた・・」
明らかに表情が緩みニヤけだし始めている。
(エッ?なに・・?)