第37話
文字数 747文字
深大寺創建に気づかされたと言った方が正しいかもしれない。
只、これまで順子の中に在った漠然とした迷いは消え。エンターテイメントに対するアイデンティティークライシスが解消されたことは間違いなかったし、今までとは勝手が違うことが多いことで感じていた道明寺合戦まつりへの不安や焦燥感は何処かへ吹き飛んで行ったことだけは間違いなかった。
がしかし、ここから順子が予期せぬ展開に向かって行く。
何事もそうなのだが物事には頃合いや加減と云うものがある。が今回、順子は明らかにそれら
のサジ加減を間違えた。
そう、完膚なきまでに相手を打ち負かしてしまったのだ。
完膚なきまでに打ち負かされた芳本は、順子の説明に得心はしたものの、一度抜いた刀を鞘に
納める事が出来ずに憮然とした表情で立ち尽くしていた。こういった場合、決まって事態は思わ
ぬ方向へ行ってしまい悪化することが多い。
そしてそれは必然的に勃発した。
芳本は納められなくなった抜いた刀の矛先を思いがけない方向に向け出してしまったのだ。
「桜田さんの言いはることは解りました。僕も大いに納得出来ます。でも、それならばどうしても気になることがあるんですわ」と芳本が言うと、順子は訝りつつ、「何でしょう?」と答えた。
この時点で順子は自分がしでかしてしまった過ちに気づき嫌な予感に襲われた。
そして、「如何に粗削りでも良いとはいえ。そもそも本人がやる気もないままで本番を迎えるんはどうなんやろうと思います。それはどちらにしてもエエことやないと思うんですけど」
と芳本が意外な事を言い出したのだ。
(しまった!矛先が変わった・・)
と順子は感じたが、その矛先が何処に向いたのかが未だ判らない。