第13話
文字数 1,549文字
最初にビールで乾杯し、その後は各々が好みの飲み物と食べ物を注文している。
そんな中、三杯目の麦焼酎の水割りを片手に竹田が呟いた。「あの二人が手を組んだんわ、間違いないな」。すると、四敗目のビールを待ちつつ鶏の唐揚げを頬張っていた林田が、「そうやろな。今日の村井さんの得意満面な表情から察するに。あの企画は村井さんから大川さんに提案されたモンやろな」と。
竹田は忌々しげに焼酎を飲み干すと、「絶対ですわ。それにしても腹ただしいんわ。自分が提案すると俺や桜田さんから弾かれるんが解ってるから大川さんに企画を提案させて、自分が関与した形跡を隠すというやり方。姑息なやり方や」。「まあ、学者さんらしいと言えば。やけどな」と林田が静かに呟いた。
今日行われた会議では、それこそライオンの檻に餌を運び込む飼育員さんの様に、慎重に、そして大川さんのメンツを潰さぬ様に、竹田も林田も、そして順子もありとあらゆる丁寧な言葉と抽象的な表現を駆使して大川に翻意を促した。
のだが、大川はそんな皆の気遣いなど全く意に介さずに持論を展開し提案した企画の実行を迫ったのだった。
しかも、その持論の一つにまつりでの甲冑武者の数が多過ぎて戦国時代のみが目立ちすぎていること、この道明寺には菅原道真所縁の道明寺天満宮や道明寺。その菅原道真の先祖で埴輪の製造を司り。道明寺天満宮や道明寺の発祥の元となった土師神社を建立した古代豪族集団の土師一族。そして数多の古墳群などなど。多種多様な歴史が存在するのにそれらが蔑ろにされていると不満を述べだしたから益々話がややこしくなってしまった。
(そんなことは解っている・・)
林田も竹田も、そして今年から関わっている順子ですら重々承知していることだ。
それでもそんな矛盾と向き合いつつ、今年までは戦国時代をメインにしなければならない大人の事情があったりする。
というのも。今年は大坂夏の陣で豊臣氏が滅亡してから丁度四〇〇年の節目となる年であることから。市のまつりへの補助金だけでなく国からも補助金が出ている。
そう、大人の事情はここにある。
いつまでも戦国時代をメインにしたまつりではいけないことぐらい林田も竹田も十分に理解している。
でも、今年までは、否、今年は‘大坂城落城四〇〇年祭’に乗っかからなければ話題性も予算もニッチモサッチモいかないのだ。
(あんたもそれくらい解っとるやろ・・)
と竹田は大川に対して怒りに近い感情を抱きだしている。
しかも、事態を益々ややこしくした原因に。
その大川の持論に対して。甲冑武者の増員に執念すら感じるくらい熱心に取り組んできた芳本が感情的に反論したことだった。
「そもそもこのまつりは‘道明寺合戦まつり’なので、メインテーマが戦国時代、特に大坂夏の陣で、この道明寺で行われた‘道明寺の戦い’がクローズアップされるんわ本筋とちゃうんですか?」と芳本が言い放った。
これまた至極もっともな反論だと順子は思ったが、(でもね、何もそれほどストレートに大川さんに面と向かって言わなくても・・私や林田さんや竹田さんが、あり得ないくらいの丁寧で抽象的な表現というか言葉の変化球攻めでの説得が全て水の泡でしょう)と順子は思った。
案の定、大川も感情的になり芳本との間で激論が繰り広げられることとなり。そんな二人のやり取りを傍観しつつ順子は徐々に(ダメだこりゃ)と現実逃避を始めていた。
そして、林田や竹田はというと。この二人のやり取りを、(あ~ぁ、始まっちゃった)と云った風な表情で眺めている。