第16話
文字数 866文字
(私は絶対嫌だ。あの大川さんと面と向かって対峙するのだけはゼッタイ、イヤダ)
恐らく、林田も竹田も同じ想いだろうと順子は感じていた。誰だって‘火中の栗を拾う’役回りは御免被りたいのは人情だ。
そして、(ここは協議会で何とかしてくださいな・・)が順子の正直な想いだったりする。
さて竹田はと云うと、(出来れば桜田さんらで対処してくれへんかなぁ)と責任回避を模索していると同時に、(そうはいかんか。筋から言えば。やはりウチでやらなアカンわなあ。すると、林田センパイ、いや会長・・ここは出番でっしゃろ)とも考え始めているが、当の林田は何かに取りつかれた様に一心不乱に、そして務めて呑気な表情で鶏からとビールを交互に、まるで大食い大会に出場したチャレンジャーの様に口に運び続けて気配を消している。やはり、林田にとっても自分より年上で町の名家の大川は苦手な存在なのだろう。
今、発言すると地雷を踏む・・誰もがそんな想いに駆られて黙り込んでいると、こう云う沈黙にメンタル的に頗る弱くて、それ迄、ひたすら黙ってコーラとウーロン茶を交互に飲んでは動物性たんぱく質ばかりを口に運んでは必死に気配を消すことに全精力を傾けていたのに、こういう時に決まって余計な発言をしてしまううってつけの男が、「誠意を以てちゃんと説明すれば。案外、すんなり諦めてくれるんじゃないでしょうか(あっ・・言っちゃった)」と不用意に発言した。
(雉も鳴かずば撃たれまい・・に)
と順子は思った。
(決まったな・・)
と竹田も思った。
誰が大川さんの首に鈴を付けるのか問題の大勢が決した。と同時に竹田は次のフェーズに想いを進め出した。
(あの人は・・どう考えてはるんやろか)
竹田にはどうしても今回の大川さんの乱への真意を確かめておかなくてはならない人物がもう一人居る。
(これは、俺がやらなアカンな)
竹田はそう考えつつ焼酎の水割りを飲み干した。