第26話
文字数 1,256文字
そんな壮大なプログラム全体の構成及び各幕のテーマを順子が企画構成し、その総合演出と振付及び音楽監督を深大寺創建が担っているのだ。
そう、これ程の規模で壮大なプログラムにもかかわらず。全体の稽古は五回と前々日と前日の通しリハーサルの二回。計七回なのだ。
そして、本日の三回目の稽古が終わり残りの全体稽古はあと二回・・。
なのに、恐らく順子も含めて未だ誰にも全体像が掴めずにいる。深大寺創建の頭の中では全体像は出来ているのだろうが。それが周囲には全く伝わっていないのだ。
それでも焦るな!不安になるな!心配するな!黙って文句を言わずに付いて来い!・・と云うのは無理がある状況と云える。
決して誰にも悟られてはならないが。
実は、順子自身が大いに焦りだしているし、この状況に大きな不安を感じ始めていたりする。
それだけに順子は芳本の実に率直でストレート過ぎる発言には動揺させられた。
(ダメだ!絶対に私の焦りや不安を悟られてはいけない!それだけは絶対に・・)
そんな想いを心の中で必死に呪文のように唱え、そして(信じるんだ。私が信じて託した深大寺創建さんを信じるんだ・・)
と、そんな混乱と動揺の中で発した言葉が、「心配いりません。大丈夫です」と云う。
余りにぶっきら棒極まりない言葉だった。
(もっと云い様があるだろう・・)
と順子自身も思ったが。今はこの言葉が精一杯だったとも思えた。
しかし、このぶっきら棒極まりない言葉を返された芳本はというと、初めは順子の精一杯の毅然とした言葉とその態度に押され気味の表情だったが、見る見るうちに不満げな表情となるのを順子は感じた。
(マズい・・もっとストレートで辛らつな言葉が返ってくる)
と順子が感じたその瞬間、
「まぁ、大丈夫やろ。深大寺さんや桜田さんらプロの方々がやってくれてるんやし。俺らがそこんところをヤイノヤイノと言うても始まらんわな」と、笑顔の林田が絶妙のタイミングで言った。
「そやかて林田さん」
と言った芳本を遮る様に林田は、「我々が信じて任せたんやから信じようや。それより、そろそろ武者行列の稽古が始まるわ。今日教わった振りを完璧にマスターせんと大変やろうからな。そろそろ行こか」と芳本を促すが。納得できない芳本は、「そりゃ、そうですけど・・」と不満げな表情と口調でなおも食い下がろうとした。すると林田は、「芳本ちゃん。俺たちは俺たちの今出来ることをやろうや。なぁ」と諭すように芳本に言った。
「・・まぁ、そう言われればそうなんですけど・・」
「それでエエねんて。ホナ、行こか」
と、順子に微笑むと林田はトットと稽古場の方に歩き出して行った。すると芳本も憮然とした表情のまま歩き出し稽古場へと向かって行ったのだった。