2018七夕(クリア・サファイア「魔術士系」)

文字数 1,005文字

「はい、かけたの」
「どこ結ぶ?」
「たかいところ!」
「じゃあ、はい、ここどうぞ」
「ねぇ、おねがいかなうかな?」
「それはサフ次第だよ」
「うん。じゃあ、がんばるね」

「クリアもおねがいかいた?」
「僕は」
「かいてね! それがわたしのおねがいだから!」
「……うん」
*****

 願い事というものは存外、すぐに思い浮かばないものらしい。
 期待に目を輝かせている幼い少女を前にして、己の金色の頭を時折乱暴にかき回しつつクリアは唸っていた。
 書けないと放棄する選択肢はない。それをすることは、そのままサフの願い事を裏切る行為となる。良い大人が、子どもの願い事を無下にすることは出来る限りあってはいけないことだということくらい、クリアだって知っている。
 彼女が紙に書いている願い事は、本人の言葉及び拙い文字をどうにか解読した感じ、『クリアといっしょにおねがいする』となっている。

 願い事を書くという主旨から考えると、色々間違っているような気がする内容だが。
 彼女に「なんでもいいの?」と問われて「なんでもいいよ」と答えたのはクリア自身だ。
 故にこの願い事も有効でないとおかしい訳で。

 しかし結果として願う内容を丸投げされた状態の彼をして、サフと一緒にお願いするに値する何かを思いつかなければならないというのは、恐ろしく困難な課題に思われた。
 何故この子はこんな事を書いたのだろう?
 そんな思考を巡らし、己の昔を思い出したクリアは、恐らく正しいだろう正解に辿り着いてしまった。

 こうでも書かないと、きっと自分(クリア)が願い事を書く行為に参加しない気がしたから、だ。

 子どもは、大人が思う以上に自分のことばかり考えていない。
 特に大事な誰かが一緒にしてくれる楽しいことは、自分だけで独占するそれよりも、好むもの。自分だけで楽しむのじゃなく、クリアと一緒にと思ったサフが、どうにかしようと知恵を絞った結果があの願いごとなのだと思われた。
 仮に、そう、仮にであるが。
 クリアが、こう言われずとも自ら率先して参加するような人間だったなら、きっとこの子はこんな願いを書いてない訳で。
 出会ってまだ日の浅い彼への、サフなりの理解をした上での結果が、今なのだ。
「ごめん、不甲斐ない大人で」
「クリア?」
「僕もうちょっと頑張るね」
 この子に二度とこんな願いを書かせないように。
 よし、と気を取り直して、クリアは決意とともに、紙に願いごとをしたためた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み