『言い訳はバッチリさ』(アミル「魔術士系」)
文字数 1,448文字
「アミルはまだサフに言ってないの?」
「何をっすか?」
「色持ちだって」
「あー……言わないっすよ」
「何で?」
「変に勘ぐられても面倒なんで」
「何を?」
「偶然でもありえないでしょ。色付きが隣の学校にいたとか」
「成る程」
「普通に使うにしても賢者だけで十分っすよ」
*****
アミルという存在が彼女と親しくなって、短くない期間が過ぎている。
ほぼ同時に、クリアたちとの付き合いも長くなっていることになる。
その間ずっとアミルが自分の色の称号に関して、サフに何も伝えてないし伝えようとしていない(むしろ積極的に隠そうとしている)のをクリアたちは気づいていた。気づいていたけれど、それに対して基本何も言わない姿勢をとっていた。
己に関しての問題をいつ伝えるかは、本人が決めるべきものだ。
周囲がとやかく言うべきじゃないし、もっと言うなら「いつかは言うべき」とすらクリアたちは思っていない。この世には墓まで持っていく秘密というものもある。全部を明かすことが信頼じゃなく、全部を暴くことで深まる仲ではない。仮にそんなものがそうだとするなら、自分たちは決して一緒にいられなかった。
だからそれは構わないのだ。
ただ、彼がこうまで隠す理由はきっと、己自身の事情だけじゃないのだろうなとは薄々察していた。
「俺らが同じ歳だった頃を思えば、むしろあいつは大人び過ぎてるんだよな」
たまに複雑な顔をしてそう言うイガルドにクリアも激しく同意しかない。
10代〜20代の初めなんて、殆どの人間が自分のことを考えるだけで手いっぱいの時期だ。
例に漏れずクリアだって、こう言うからにはイガルドにだってそうだった記憶がある筈で。自分すら手に負えないような頃、余程じゃなければ他人の事情まで背負いこんだりはできない。
クリアやイガルドがサフに出会ったのは20代前半だったとはいえ、2人が彼女を背負ったのは各々の我儘による部分が大きかったし、純粋な気持ちと呼ぶには程遠い利己的な動機が心のどこかに、親愛と一緒に同居していた。
翻って、アミルはどうか。
彼の動機の根幹が恋慕だろうというのは想像に容易いものの、それによって起こしている行動はただの恋で片付けるには少々献身が過ぎるのではというのがクリアたちの見方である。
しかもそれをアミル自身は然程疑問や戸惑いを持たず、当たり前に実行しているのがまた怖い。
大切な相手に、己の気持ちを押し付けず、はっきりした見返りも求めず、ただただ大切にする。
こう言えばどこにでもありそうな思慕からの行為のようだが、恋慕から発生するには、それはあまりに純粋が過ぎる。
そういう恋を抱えられるには、若さは障害でしかない筈なのだ。それはもっと後に、経験や性格によって獲得していくものだというのが彼らの共通認識である。
仮にそうなることを目標に生きていたところで、普通はどこかにほころびが出てくる筈なのに、アミルにはそれがない。
人間らしいようでいて、ひどく人間らしくない感情の形だ。聖者でもなければ維持が難しいはずの在りようをしている。
その危うさに気づいた彼らは、応援するでもないが反対もしていなかったこの状況を、いつしか注意深く観察するようになった。
元王女である彼女だけではない。
いざという時、彼女だけでなく、アミルにも手を差し出せるように。
一番近くにいる人間の大人として出来ることを、この無自覚な聖者もどきのために用意しておかなければ。それこそ大人である自分たちの立つ瀬がないと思うようになったのだ。
「何をっすか?」
「色持ちだって」
「あー……言わないっすよ」
「何で?」
「変に勘ぐられても面倒なんで」
「何を?」
「偶然でもありえないでしょ。色付きが隣の学校にいたとか」
「成る程」
「普通に使うにしても賢者だけで十分っすよ」
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アミルという存在が彼女と親しくなって、短くない期間が過ぎている。
ほぼ同時に、クリアたちとの付き合いも長くなっていることになる。
その間ずっとアミルが自分の色の称号に関して、サフに何も伝えてないし伝えようとしていない(むしろ積極的に隠そうとしている)のをクリアたちは気づいていた。気づいていたけれど、それに対して基本何も言わない姿勢をとっていた。
己に関しての問題をいつ伝えるかは、本人が決めるべきものだ。
周囲がとやかく言うべきじゃないし、もっと言うなら「いつかは言うべき」とすらクリアたちは思っていない。この世には墓まで持っていく秘密というものもある。全部を明かすことが信頼じゃなく、全部を暴くことで深まる仲ではない。仮にそんなものがそうだとするなら、自分たちは決して一緒にいられなかった。
だからそれは構わないのだ。
ただ、彼がこうまで隠す理由はきっと、己自身の事情だけじゃないのだろうなとは薄々察していた。
「俺らが同じ歳だった頃を思えば、むしろあいつは大人び過ぎてるんだよな」
たまに複雑な顔をしてそう言うイガルドにクリアも激しく同意しかない。
10代〜20代の初めなんて、殆どの人間が自分のことを考えるだけで手いっぱいの時期だ。
例に漏れずクリアだって、こう言うからにはイガルドにだってそうだった記憶がある筈で。自分すら手に負えないような頃、余程じゃなければ他人の事情まで背負いこんだりはできない。
クリアやイガルドがサフに出会ったのは20代前半だったとはいえ、2人が彼女を背負ったのは各々の我儘による部分が大きかったし、純粋な気持ちと呼ぶには程遠い利己的な動機が心のどこかに、親愛と一緒に同居していた。
翻って、アミルはどうか。
彼の動機の根幹が恋慕だろうというのは想像に容易いものの、それによって起こしている行動はただの恋で片付けるには少々献身が過ぎるのではというのがクリアたちの見方である。
しかもそれをアミル自身は然程疑問や戸惑いを持たず、当たり前に実行しているのがまた怖い。
大切な相手に、己の気持ちを押し付けず、はっきりした見返りも求めず、ただただ大切にする。
こう言えばどこにでもありそうな思慕からの行為のようだが、恋慕から発生するには、それはあまりに純粋が過ぎる。
そういう恋を抱えられるには、若さは障害でしかない筈なのだ。それはもっと後に、経験や性格によって獲得していくものだというのが彼らの共通認識である。
仮にそうなることを目標に生きていたところで、普通はどこかにほころびが出てくる筈なのに、アミルにはそれがない。
人間らしいようでいて、ひどく人間らしくない感情の形だ。聖者でもなければ維持が難しいはずの在りようをしている。
その危うさに気づいた彼らは、応援するでもないが反対もしていなかったこの状況を、いつしか注意深く観察するようになった。
元王女である彼女だけではない。
いざという時、彼女だけでなく、アミルにも手を差し出せるように。
一番近くにいる人間の大人として出来ることを、この無自覚な聖者もどきのために用意しておかなければ。それこそ大人である自分たちの立つ瀬がないと思うようになったのだ。