『グラスにうつった真実』(カイン「楽園外のセフィラ;第1の話」)

文字数 1,615文字

セフィラの部屋にある物はいちいち高価そうである。
時に雑な自覚のある自分が何か壊したりしないよう、カインは毎日入るたびに気を張っていた。が、不幸は時に避けられないものである。
あ、と声を出す間にも、青いガラスは砕け散ってしまい。
全力で謝ったら、相手は冷めた目で捨てろと言った。
*****
「弁償は……?」
「いらん。気になるならお前が自腹で何か代わりを買ってこい」
*****

 休日。
 弟たちを連れて街に出たカインは心底困っていた。
 セフィラの自室に置かれていた青いガラスの代わりになるものを、と思って探しているものの、案外これと思えるものが見つからない。まずセフィラの部屋に置くためのものという前提が問題かもしれない。腐ってもセフィラ様、安物を飾って似合うような部屋構えではないのだ。
 勿論、カインが買う何かをケテルが気にするとは限らない。
 どころかあの日の発言自体、もう忘れている可能性だってある。あの日以降何も言及されていないし、黙っていればそのまま有耶無耶になりそうな気配すらある。
 でもそれではカインの気が済まないのだ。
「なーアベル、これどうよ」
「つるつるしてるね」
「……だよなー」
 目の見えない弟にガラス細工の1つを差し出せば、それにそっとふれたアベルがそのままの感想を漏らす。
 次にセトへとそれを差し出すと、触れはせずにまじまじと眺めたセトが言う。
「あ、わ、な、い」
「ケテル様の見た目っていうか性格っていうか雰囲気には合わないかも、だって」
 上手く喋れないセトに代わり通訳してくれるアベル。
「それなー! そうなんだよな。でもな、それ言ったらあの部屋、あいつに似合ってるもんなんかほぼねーんだよなぁ。貰い物ばっかだからよ」
 実益重視で装飾をあまり好まない性格にも関わらず、飾りがあるのはその為だ。
 献上される装飾物は1つ2つではないが、その中から歴代の(就任歴が短かった)補佐たちがいくつか部屋に置いたものが残っているらしい。あえて自分で片付ける程に労力をかける理由も見つからなかったケテルがそれを放置して、現在に至るっぽいことをカインは知っている。
 ケテル自身はきっと飾ることを好まないだろう。カインはもうそんな性格を知っている。
 だからこそ、ケテルのために、と考えた場合に何も浮かばないのだ。
「ぎゃ、く」
「なんでもいいなら、逆に兄ちゃんがあの部屋に置きたいものを買ってみれば? だって」
 成る程。
 そもそもどういうものを用意しろなどと指定されてないのだ。
 どうせ嫌味かお叱りを受ける可能性があるなら、自分が好める何かを買っていくのもアリか。ケテルに怒られれば自室に持って帰って飾ればいいんだし。
「そっか、そーだな。じゃあそうすっか」
 ありがとよ、とカインは弟2人の頭をグリグリと撫でた。


♪〜 ♪〜 ♪〜 

「おい、これは何だ」
「今街で流行りの、音が聞こえたら踊るぬいぐるみだってよ」
「……何故ソレを飾っている」

♪〜 ♪〜 ♪〜 

「先週お前が言ったんだろ! 自腹で何か買ってこいって!」
「……何故これを選んだ?」

♪〜 ♪〜 ♪〜 

「お前の部屋には愛嬌が足りねぇなって思ってよ」
「大馬鹿者か貴様」
「俺なりに考えたんですけどね!?」

♪〜 ♪〜 ♪〜 

「ところでこれはどういう意匠のぬいぐるみなのだ」
「いしょう?」
「何の生物だ」
「えーっと、何かの童話に出て来る森の生き物だってよ」

♪〜 ♪〜 ♪〜 

「手に持ってるのは何だ?」
「枕らしいぜ? よーわからんけど」

♪〜 ♪〜 ♪〜 

「森に住む怪物に、恩を売られた男の友人が怪物から可愛い生贄を求められて、その男の友人に当たる世にも可愛い男が女装して怪物のところに行くんだけど、怪物と一緒に住むうちに怪物に恋をしちまって本気になったところに、あれこれあって怪物の呪いもとけて幸せになりました、みたいな話らしい」
「ソレのどこにこの生物の出番が?」
「最初に出て来る男が森で狩猟してる生物だってよ」
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