『もう顔も思い出せない』(アミル「魔術士系」)
文字数 1,093文字
懐かしさもないというのはある意味救いか。
セバスが言うには、自分は母親似らしい。思い出せない。
「まだ目も開いてませんでしたので、見てすらいなかったかと」
成る程、思い出しようもない相手だった。
むしろ親といえば真っ先にセバスの顔が浮かぶと言うと、彼は珍しく嬉しそうな顔をした。
*****
子どもの頃の思い出、といえば必ず鮮やかな緑がちらつく。
多くの子が幼い頃の思い出の中に親を思い浮かべるよう、アミルの場合は当然に森の緑が浮かぶ。自分を見守ってくれているのはどの精霊も同じだと分かっていたが、やはりその代表としていつも身近にいたセバスが浮かぶのは仕方ない。
森の中、いつだって傍にいたのだ。
むしろ思い出さない方がありえない位だろう。
血の繋がった親を懐かしく恋しく思わないのは、偏に彼らが傍にいてくれたお陰だし、これといっておかしな方向に捻くれるでもなく育ってるのも彼らのお陰だ。まぁ、人と異なり悪意を持たない彼らに育てられたら、どんな人間でも相応に善良に育つような気がするが。
そんな事をつらつらと話したのは、子どもの頃の思い出に関して尋ねられたから。
聞いてきた方は空よりも濃い青の目を好奇心で輝かせながらこちらの話をずっと聞いている。何が楽しいのかはよくわからない。
「まー、俺にとってはこんなとこだけど」
「じゃあ、世界中どんな森もアミルにとっては身近な感じ?」
「そうだな……身近っていうか、我が家的な場所になるから、森ってだけなら緊張感はねーな」
「セバスちゃんがいなくても?」
見当違いな事を質問してくる彼女に返答しようとして、しかし彼女の知見から判断すればそれは見当違いではないのだと思い直す。見えているのだから、そう考えて当然だ。
でも、この先ここで過ごす時間がもっと増えていけば、サフなら近いうちに理解しそうな気もする。
「セバスは、森になら何処にでもいるぞ」
「そうなの?」
「精霊だからな」
人間のように目に見える実体で全部ではない。むしろ見えている姿はセバスの一部でしかないし、セバス自身は精霊の森に限らず世界中あらゆる森全ての概念を司る精霊である。
目の前に見えるかどうかは、セバスがその姿を現すかどうかの違いでしかない。
見えていないからといって不在、ではないのだ。
「じゃあ、アミルは寂しくなったりあんまりないんだね?」
「そうだな。そういう感傷に浸るにゃ、この世界に森は多すぎるし、森に限らず精霊がいない場所なんか無いしな」
この世界にいる限り寂しさと一番無縁なのは自分かもしれない。
そう答えれば、サフが嬉しそうに笑って「よかった」と言うから、なんとなく照れ臭くなった。
セバスが言うには、自分は母親似らしい。思い出せない。
「まだ目も開いてませんでしたので、見てすらいなかったかと」
成る程、思い出しようもない相手だった。
むしろ親といえば真っ先にセバスの顔が浮かぶと言うと、彼は珍しく嬉しそうな顔をした。
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子どもの頃の思い出、といえば必ず鮮やかな緑がちらつく。
多くの子が幼い頃の思い出の中に親を思い浮かべるよう、アミルの場合は当然に森の緑が浮かぶ。自分を見守ってくれているのはどの精霊も同じだと分かっていたが、やはりその代表としていつも身近にいたセバスが浮かぶのは仕方ない。
森の中、いつだって傍にいたのだ。
むしろ思い出さない方がありえない位だろう。
血の繋がった親を懐かしく恋しく思わないのは、偏に彼らが傍にいてくれたお陰だし、これといっておかしな方向に捻くれるでもなく育ってるのも彼らのお陰だ。まぁ、人と異なり悪意を持たない彼らに育てられたら、どんな人間でも相応に善良に育つような気がするが。
そんな事をつらつらと話したのは、子どもの頃の思い出に関して尋ねられたから。
聞いてきた方は空よりも濃い青の目を好奇心で輝かせながらこちらの話をずっと聞いている。何が楽しいのかはよくわからない。
「まー、俺にとってはこんなとこだけど」
「じゃあ、世界中どんな森もアミルにとっては身近な感じ?」
「そうだな……身近っていうか、我が家的な場所になるから、森ってだけなら緊張感はねーな」
「セバスちゃんがいなくても?」
見当違いな事を質問してくる彼女に返答しようとして、しかし彼女の知見から判断すればそれは見当違いではないのだと思い直す。見えているのだから、そう考えて当然だ。
でも、この先ここで過ごす時間がもっと増えていけば、サフなら近いうちに理解しそうな気もする。
「セバスは、森になら何処にでもいるぞ」
「そうなの?」
「精霊だからな」
人間のように目に見える実体で全部ではない。むしろ見えている姿はセバスの一部でしかないし、セバス自身は精霊の森に限らず世界中あらゆる森全ての概念を司る精霊である。
目の前に見えるかどうかは、セバスがその姿を現すかどうかの違いでしかない。
見えていないからといって不在、ではないのだ。
「じゃあ、アミルは寂しくなったりあんまりないんだね?」
「そうだな。そういう感傷に浸るにゃ、この世界に森は多すぎるし、森に限らず精霊がいない場所なんか無いしな」
この世界にいる限り寂しさと一番無縁なのは自分かもしれない。
そう答えれば、サフが嬉しそうに笑って「よかった」と言うから、なんとなく照れ臭くなった。