『AM 3:00』(アッシュ「不完全交流異端」)
文字数 1,110文字
吸血鬼は夜の魔族だ。
だが半分人間である彼にとって夜は主に寝るものである。
正しくはどちらで寝ても構わないのだが、料理を振る舞う相手ほぼ全員が昼の住人であることから昼型を選択していた。
それでも稀に、夜に過ごしたくなる。
夜明けが遠い城の中、ふらりと彼は歩き出した。
*****
空に月はない。
湖の中央に在る白い城は、星明かりの下でも目立つという。
生まれてからずっと暮らす城の見た目に関してどうこうと思ったことは一度も無いけれど、先祖代々が長く暮らしているにしては劣化していないのは、元々魔力を練り込み作られた半物質の城だからだろう。結界だけではない。城の建物に使っている物の多くが普通の材料ではないらしいと言っていたのはタカトだったか。
夜の終わり頃、起き出したこちらを目ざとく発見したらしいケーディがこちらに来ようとしていたので、早々に釘を刺した。
静かな夜を歩くのに、あの男は少々騒がしすぎる。
本人はこちらに合わせ最大限静かにしていてくれるのだが、いかんせん常に此方の出方を伺おうとするその気配自体が少々鬱陶しいものがあるので、こんな夜に側に置くには相応しくない。嫌っているわけではないが、相手する気がない時もあるのだ。
その辺タカトならこちらの気分に合わせるよう常に上手く気配を操作してくるので、これはもう経験の差なのだろう。
ふらりと夜空に浮かんで城を見下ろす。
静かな城の中では、昔に比べて増えた住人の殆どが寝息を立てている。
寝ていないのはケーディとタカト位のものだ……イワツはいつもの如く、この城にはいない。マイラのそばに付かず離れずいるようでいて、離れている時間がかなりあるのだ、あの公爵は。
せっかく外に出たのでなんとなく結界を確認し、綻びを直す。
最近住人が増えたのでそれに合わせてタカトが結界を変えたようだが、まだ安定していない部分があるのはマイラたちの問題というより、イワツの存在が大きいかもしれない。
より大きなものに合わせて結界を修正するのは結界術の基本だが、アレは術者の手に余る位に大きすぎるのだ。
今の所、単に計算を超えた部分で結界が綻ぶ程度の問題しか起こってないけれど。
変に暴れられたりしない限りは、このままでも問題無い筈。
「……アレが暴れるのも想像つかないが」
謎の多い公爵を思い出し、魔王は呟く。
言動に奇妙な部分は多いけれど、余裕をなくすような姿は想像つかない。どんな状況に陥ろうとも、どうにでもしそうな気がする。
あの奇妙な枕魔法は、見た目の奇異さに反して周囲への影響は最低限だし。
結界を直し終わっても夜空に浮かんだまま、魔王はしばらく何をするでもなく己の城を見下ろしていた。
だが半分人間である彼にとって夜は主に寝るものである。
正しくはどちらで寝ても構わないのだが、料理を振る舞う相手ほぼ全員が昼の住人であることから昼型を選択していた。
それでも稀に、夜に過ごしたくなる。
夜明けが遠い城の中、ふらりと彼は歩き出した。
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空に月はない。
湖の中央に在る白い城は、星明かりの下でも目立つという。
生まれてからずっと暮らす城の見た目に関してどうこうと思ったことは一度も無いけれど、先祖代々が長く暮らしているにしては劣化していないのは、元々魔力を練り込み作られた半物質の城だからだろう。結界だけではない。城の建物に使っている物の多くが普通の材料ではないらしいと言っていたのはタカトだったか。
夜の終わり頃、起き出したこちらを目ざとく発見したらしいケーディがこちらに来ようとしていたので、早々に釘を刺した。
静かな夜を歩くのに、あの男は少々騒がしすぎる。
本人はこちらに合わせ最大限静かにしていてくれるのだが、いかんせん常に此方の出方を伺おうとするその気配自体が少々鬱陶しいものがあるので、こんな夜に側に置くには相応しくない。嫌っているわけではないが、相手する気がない時もあるのだ。
その辺タカトならこちらの気分に合わせるよう常に上手く気配を操作してくるので、これはもう経験の差なのだろう。
ふらりと夜空に浮かんで城を見下ろす。
静かな城の中では、昔に比べて増えた住人の殆どが寝息を立てている。
寝ていないのはケーディとタカト位のものだ……イワツはいつもの如く、この城にはいない。マイラのそばに付かず離れずいるようでいて、離れている時間がかなりあるのだ、あの公爵は。
せっかく外に出たのでなんとなく結界を確認し、綻びを直す。
最近住人が増えたのでそれに合わせてタカトが結界を変えたようだが、まだ安定していない部分があるのはマイラたちの問題というより、イワツの存在が大きいかもしれない。
より大きなものに合わせて結界を修正するのは結界術の基本だが、アレは術者の手に余る位に大きすぎるのだ。
今の所、単に計算を超えた部分で結界が綻ぶ程度の問題しか起こってないけれど。
変に暴れられたりしない限りは、このままでも問題無い筈。
「……アレが暴れるのも想像つかないが」
謎の多い公爵を思い出し、魔王は呟く。
言動に奇妙な部分は多いけれど、余裕をなくすような姿は想像つかない。どんな状況に陥ろうとも、どうにでもしそうな気がする。
あの奇妙な枕魔法は、見た目の奇異さに反して周囲への影響は最低限だし。
結界を直し終わっても夜空に浮かんだまま、魔王はしばらく何をするでもなく己の城を見下ろしていた。