『味見と毒見と、』(似非妖精「私と天使」)

文字数 1,066文字

「愛の試食係、僕だよっ!」
「いきなり何よ」
「ふっふっふ。本体を出し抜いてでもリムの愛のかけらが欲しいのさ!」
「はぁ」
「毒味だって味見だって様子見だって何でも任せなさい!」
「じゃあ、はい」
「え?」
「よそ見」
「イヤアアアアア! 視線カムバッーーーーーク!」
*****

 料理の腕は一進一退。
 サイに教わって練習はしているけれど、これは美味しいと断言できるようなものは、少なくとも自分1人で作った時に出来たことはない。サイが手伝ってくれた場合は別だったけれど。
 長年、人の住む街の中にある館の管理を好んでしている中天使だけあって、サイの料理の腕は相当のものだ。リムが作った微妙なものですら彼の一手間が入ると美味しくなるのだから、達人の域と言ってもいいかもしれない。
 だが、目標はあくまで自分だけで美味しいものを作れるようになることなので、それではダメだ。
「僕はこれでもいいと思うんですけどね」
 今日も微妙な味になった菓子を一緒に食べてくれつつサイが笑う。
 絶品というほどでもないが不味いと言うほどでもなく、必要な甘さは出てるけれどサイの作るものに比べると圧倒的に何かが足りない感が残るその菓子は、今の未熟なリム自身のようだった。
「作るなら美味しいものがいいじゃないの」
「リム様は料理人になりたいんですか?」
「そうじゃないけど」
 どう言えば目の前の天使に伝わるだろう、と考えてみたけれど、人でない存在にこの微妙な気持ちがどう言えば伝わるのか思いつかなかった。
 折角なら美味しいものを食べたいし、誰かに食べられるなら美味しいものを出したい。
 仮に食べる相手が自分だけだったらきっとここまで思ってないのだ。
 こんな風に思ったのは、自分以外に食べてくれる誰かが現れたから。それは、あの天使だけじゃない。サイだって含まれているのだ。変な下心があるわけじゃないけれど、食べてくれる相手には美味しいと思って欲しい。それはわがままなのだろうかとリムは思う。
「でも、リム様がそう望むなら、それでいいと思いますよ。僕で良ければ幾らでもお教えしますし」
「ありがと。でも、美味しくなければ無理して食べないでね?」
 無理をさせたいわけじゃないのだと言えば、年下の少年の姿をした中天使はにこりと笑って頷いた。
「大丈夫ですよ。美味しさは味だけで決まるものじゃありませんから」
「そうなの?」
「はい。なので、僕にとってはこれはこれで美味しいので、いいと思ってるんですよ」
 言いながら菓子の残りに手を伸ばすサイに、リムは首を傾げた。


 騒がしい分身が飛び込んでくるまであと少し。
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