ハグの日(アミル「魔術士系」)

文字数 1,363文字

理由はない。きっと他意もない。
ただ当たり前なのだろう。不穏な時にどちらともなく自然に近寄って、時にはサフの方がしがみついているし、クリアの方も反射的にかばう仕草をしている。
子どもの頃からそんな風だったのだろうなと思う。
だからといって何も感じないかと言えば嘘になるけれど。
*****

(それを口に出すほど迂闊でもない)
*****

 急に響いた雷鳴に、食事終わりで寛いでいた住人たちに緊張が走った。
 全く驚かなかったのはアミルとセバス位で、他3名は各々突然の大きな音と光に声を漏らして窓の外を見ている。シロですら、立ち上がりはしないけれど顔を上げて窓の方を見ていた。
 さっきまで普通の昼間だったそこは、黒い雷雲で覆われ薄暗い。
「ええ〜、何今の、近くなかった?」
 音が小さくなった辺りでクリアが苦笑しながら言う。
 その腕にはサフがくっついていて、クリアは無意識にだろう彼女の金の髪を撫でている。雷鳴が轟く前から近くにいた2人だったが、音に驚いてサフの方が寄ったらしい。
「まだ続くかもな」
「そうですね。あと少しは続くかと」
 窓に近寄って空を見上げつつ言うイガルドに、セバスが答える。雷鳴は精霊の仕業なのでセバスはもちろん、アミルも気配で発生したことは気づいていた。
 この辺で雷は珍しいが、絶対に起きないという訳でもない。止めもせず嫌がってもいないから、相応に発生するものだった。
「落ちる?」
 極端に怖がっている様子はないけれど恐る恐る、といった様子でサフが誰ともなく尋ねる。
 雷が落ちることもやはり自然現象で、これも同じく絶対に起きない訳じゃない。
「どっかに落ちる可能性はあるけど、この屋敷には落ちねーよ」
 ただ保証できることがあるとしたらそれは、この屋敷に雷が落ちる可能性だけは皆無ということか。これはもう法則に近い、精霊の意志による結果であり、アミル自身の希望を超えたところで発生するものだ。
 いや、落ちて欲しい訳ではないけれど。
「え、絶対?」
 不思議そうに話に見てくるクリアに、頷く。
「絶対っすよ。あいつらこの屋敷を壊す可能性がある事は避けるから」
「アミルがいるからか?」
「いや、俺が生まれるずっと前からっすね。何時からっていえば、この屋敷が出来てからずっとじゃねーかな」
 イガルドにも答えてセバスの方を見れば、深緑色の目を穏やかに細めてセバスが「そうですね」と肯定した。
「我々精霊にとってこの屋敷は大事な場所なので、出来れば残しておきたいのです」
「精霊だから忘れるっつーことはないんだけど、忘れないからって残るものに頓着ねーって訳でもないらしい」
 セバスの言葉を補足すると、サフたちから感嘆のような相槌のような判断し難い声が漏れた。
 会話している間も誰も動いていない部屋の中。
 再度、外から大きな雷鳴が響いて、今度は全員最初ほど驚かなかったけれどサフとクリアは最初の体勢のままでそれぞれ声を上げている。イガルドはもう普段通りの冷静さで、ぼんやり窓の外を眺めていた。その足元でシロはもう興味を失ったのか寝る体勢である。
「とりあえず、しばらくこの部屋にいよっか」
「うん」
 クリアたちのそんな会話を聞きながら、特に自室へ戻る理由もないので自分も残ることにしたアミルの結論を察したように、セバスが「ではお茶でも淹れましょうか」と微笑んだ。
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