『第三者いわく、』(セバス「魔術士系」)

文字数 944文字

曰く「親のようだ」。
曰く「執事のようだ」。
曰く「他人のようだ」。
曰く「家族のようだ」。

近しくある為にはどうあるべきか。
時に彼らすら迷う、そんな数多の表現を、彼らの愛し子は一蹴して笑う。
「なんでもいいだろ」
きっと、この子が笑う限りは、どうでもいいことなのだ。
*****


「ただいま」
「お帰りなさい」
 アミルを玄関で出迎えたセバスは深々とお辞儀をする。
 互いの間に上下関係があるわけではない。
 セバスは、常の言動において参考としている人の子の世話係の動きを忠実に真似ているだけに過ぎないし、それを知るアミルもセバスの言動に苦言を呈したことは一度もない。屋敷の正当な持ち主はアミルであるが、彼を世話しているのはあくまでセバス自身の趣味と意向である。
 既に身の回りの全てを問題なく自分でできるアミルには、もう世話をする存在は不要だということもセバスは理解しているけれど、不要とアミルに言われない限りは今の在りようを変える気はない。
「なんかあったか?」
「いいえ。皆様いつも通りでした」
 現在、屋敷の住人となっている3名に関しても、食事等の世話をしているのはセバス自身の意向だ。
 とはいえ全員揃って手がかからないしセバスを下に見るような者は全くいないので、世話をしていると言うほどの何かをしている訳ではない。せいぜい、クリアの菜園に関して気を使ったり、サファイアの動向を常に気にしていたりする程度でしかない。
「これ、土産」
「ありがとうございます」
「いつも言ってるけど、もっと色々買ってこれるんだぞ?」
「存じてます」
 土産の袋を受け取りながらセバスは、昔よりもずっと大きくなった愛し子の顔を見る。

 人は成長し、いつか老いて、死ぬ。
 どうやっても人の生は限りある短いもの。

 その理を精霊は嘆く気も逆らう気もなく受け入れるだけである。が、共にある瞬間の意味は理解している。
「こうしてアミルを出迎えられることが、一番の土産です」
 いつか来る終わりの前、後何度こんな機会があるかはわからないけれど。
 こうやって一緒に過ごせる時間こそが、いつだって何より得難く、未来においては取り戻せないものである事を精霊たちは知っているから。
 照れたのか、ちょっと頬を染めて視線を逸らしたアミルの頭を、そっとセバスは撫でつけた。
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