『これ以上甘やかして、どうするの』(クリア「魔術士系全般」)

文字数 1,190文字

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膝の上で寝息をたてる少女の頭を撫でる。
再会後も変わらない甘え様に笑みを浮かべる彼を、相棒が呆れた顔で見る。
「嬉しそうだな」
その言葉に、彼は頷いた。
「甘やかすのは、権利だからね」
まだ譲れないよね、という言葉が誰に向けられたものか。
頑張れよ、と脳裏に浮かんだ相手へ伝えた。
*****

 本来の立場から考えれば、距離が近すぎるのだろう。
 騎士勤めの経験もあるイガルドからすれば、クリアとサフの距離は、少なくとも主従のそれではない。皇国にいた当時、外向きにはそう振る舞う程度に両者弁えていたが、実際には兄妹のそれに近い。
 サフの性格もあるのだろう。が、そうなった要因の大部分はクリアの側にある。
 外面はともかくとして、彼女に対して従者としての認識を最初からクリアが持ってない事を、聡い少女に見抜かれているのだ。側にいるにあたって、クリアがそういう関係を求めていない事を幼いながらに察して、それに合わせて成長したからこうなっただけ。
 正しいかどうかは別にして。
 果てにどうなりたいかも別にして。
 片親が亡くなった彼女の、一番近しい存在という場所を、何より希求したのだろう。
 出会った頃から今に至るまでを知るイガルドをしても、クリアのその感情が何に由来するのか表現するのは難しい。単純な恋情だの愛情だのという類のものだけではない、のが分かるだけだ。
 少なくとも、再会した時に彼女のそばにいた少年を、クリアは一切頓着していない。
 サフにとっての敵か味方かという判定はあったが、明らかに親しい場所にいて彼女を特別視しているのは確実なその相手の存在は、クリアの立場を一切揺るがさないし乱すものではないようだ。否、今後彼女にどういう相手が出てこようとも、クリア自身は揺らがないのだろう。
 誰よりもサファイアという子を特別視していて。
 しかしサファイアから向けられるモノには頓着していない。仮に(絶対に無いだろうが)彼女から嫌われたとしても、クリアから向けるものは変わらないのだ。仮に特別な愛を向けられたとしても同じく。
 それは、見方を変えれば、酷く傲慢で身勝手な認識だろう。
 相手の感情に頓着しない一方的なものを向け続けるなど、一歩間違えば不幸しかない。
 でもきっと死ぬまで彼はそうあり続ける。
 互いの関係を示す明確な言葉など無くなっても、大人になろうという時期の再会後で当たり前に側にいることを選んだように。クリアにとって自分の関心を彼女に向けて全部を与えることは、選ぶまでも無い唯一の選択肢なのだから。

 だから今、クリアのほんの少し覗いた独占欲に似た発言に、奇妙な安堵を抱いてしまうのだ。
 少なくともそういう風に言える程度に、自分の行動が周囲に与える影響は理解しているらしい、と。

 ともすれば常人とはかけ離れすぎた感性を披露する相棒を持つと、どうやら心配性になってしまうもののようである。
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