『信じる神様が違う』(イガルド「魔術士系」)

文字数 907文字

クリアの中に、譲れない絶対の存在がいるのは知っている。
それが誰にも見せられないもので、だから周囲と無意識に距離を置いているのも。
他の誰かと共有するよりも、自分の中で大切に守る事を選んだのだ。
別に、構わない。
自分にも同じような存在があるし、共有が全てじゃないのだから。
*****

 追い立てられるように目が覚めた。
 太陽はまだ遠い時間。暑くも無いのに全身じっとりと汗をかいていて気持ち悪く肌寒い。
 理由はわかっている。起きてすぐだからこそ、直前まで見ていた夢の残滓がべったりと残っているのだから。

「いつまで思い出にしがみついてんだよ」

 詰る声は、過去に聞いた記憶のあるもの。
 あの時も今も、それに対する返答は変わらないというのに、鼻で笑い飛ばせない自分が嫌で、悪夢になる。
 どんなに思い出にしがみついたって何も戻ってこない。そんなのは分かっているけれど、忘れるくらいならしがみついたまま一生を過ごす方がマシに思える思い出だってあるのだ。常に忘れる方が正しいなんて、そんなのは間違っている。
 はぁ、と息をついたところで、投げ出していた手に柔らかな感触。
 暗闇の中でもぼんやりと目立つ白い毛並みが、ぐいぐいと体を押し付けるみたいにそばに寄ってきて一緒に寝ようとしていた。
 異常に気づいたのだろう。
 頻繁では無いけれど稀にこうして魘される度、シロはわざとらしくくっついてくる。
 起き上がってもいないのに気づくあたり、本当に聡い。
「もうちょっと、こっち」
 その体を強引に引き寄せて抱きしめた。
 特に抵抗するでもなく、魔獣はされるがままだ。
 こういう時、本当の獣より賢いというのは損をしているのかもしれない。でもその賢さに甘えてしまう。
「しがみつくのも、わるくないんだよな。だっておまえはこんなにふわふわなんだから」
 夢の中の言葉はそういう意味じゃ無い。
 分かってたけれど、もう会うことがない相手に正確な弁明なんて意味がない。
「もうちょっとねような」
 強引に抱いた状態で、楽な体勢ではないだろうに抵抗しない魔獣を抱えたまま、目を閉じた。
 気持ち良い感触に埋もれていると、あっという間に眠気は訪れ、意識は千切れるみたいに途切れた。
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