『嘘吐き、どの子?』(カイン「楽園外のセフィラ;第1の話」)

文字数 1,128文字

あいつらが重くないか?
そんなこと考えたこともねーけど、軽いってことは無いだろ。
でも、重くて何か問題あるのか?
俺は、独りだと思ってた頃より、あいつらがいるとわかってる今の方が楽しいし、こんな重さなら悪くねーと思ってるけど。
嘘つき?
何言ってんだお前……嘘なんかねーっての。
*****

 本気で言っているのだから頭が痛い。
 現在補佐役に据えている男は、かなり救いようの無い馬鹿である。
 何しろ、自分で自分に嘘を言っている事に気づかないまま、その上でその嘘を本当にしてしまえる馬鹿さまで備わっている。思い込みもここまできたらいっそ才能と呼ぶべきか。
 補佐にする前と記憶が戻った後で、自分がどう変わったのか(あるいは変わってないのか)を客観的に見られないからこそ、この男は自分の嘘に気づかないままでいられるのだろう。別段ここで嘘が悪いなどと下らない倫理観を持ち出す気は無い。問題になっているのは本人が抱えきれるかどうか、である。
 見た限り、ギリギリ均衡を保っているように思う。
 普通の家庭ですら、問題のある子どもを複数抱えるのは難しいのだ。まして本人まで問題を抱えてるカインが、実の弟と追加してもう1人を抱え平気だと言える認識が、既に狂っている。
 それを細かく指摘して気づかせることは恐らく可能だったけれど、きっと誰も幸せにならない。
 全く面倒臭い補佐役である。
「一度連れてこい」
「は?」
「貴様の弟たちだ」
「いいけど……何でだよ」
 不審そうにこちらを見て来る馬鹿に、悟られないようにするのは難しく無い。何しろ馬鹿なので。
「視力と会話に問題があるのだろうが。このオレが直々に解析で程度を測ってやる」
 そういうものを専門とする解析士も本殿にいることはいるが、正確性という部分において他者に委ねるよりも自分でやった方が余程確実なのがセフィラという存在である。
 測定法や知識で揺らぎが出るその他の誰かが出す結果より、セフィラ直々の結果の方が異議を挟みようが無いという点で効率がいい。
 いかなる専門家であろうがセフィラの診断に異議は挟めない。そして少なくともセフィラは先入観などでもって検査の結果が左右されるような愚かさは持ち合わせていないのだから、最も正確な結果を望むならば適任なのだ。
 補佐役の家族だからといってここまですると周囲から不満も漏れそうだが、そんなものすらどうにでもなる。
 折角面白いものを補佐にできたというのに、家族問題で余計な苦労をした挙句に辞任される方が余程迷惑というもの。
 後に残る憂いの種は減らすに越したことはない。
「セフィラってそんなことも出来るのか」
 無知故に感心している補佐を内心呆れつつ眺めながら、「明日の朝連れてこい」と強く言い含めておいた。
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