『強い人』(唐杉「仮初世界の擬似記録」)

文字数 1,165文字

山辺は本人評価が低い。
周りが『世界奇想天外10選みたいなもん』(烏間談)のせいかもしれないが、その手の特殊能力のない山辺は己を普通と断じて揺るがない。
が、唐杉的に言わせれば、山辺が一番部署では強い人だ。

そんなものに囲まれても己を偽らず恥じず嘆かず居られる、その様こそが。
*****

 年に数回、基礎体力のチェックも兼ねた機動隊との合同訓練がある。
 もう肉体的にそれほど若くないのはわかっているが、日々動くことの多い唐杉と異なり、動くことが少ない山辺は毎度この訓練が大変そうだ。
 評価的には常に管理職の合格ギリギリラインに乗ってくるらしい。計算したみたいに。
 あいつわざとやってねーか、とは彼らの部署の人員が参加する訓練では常に審査役も兼ねて参加してくれる(何かあったとき用だ)特別機動部の部長の片割れの談である。それほど、本当に微妙なラインで毎度合格してるそうだ。
 一応最低限であっても合格しないと、合格するまで副部長の肩書きが剥奪され一般職員と同列になる。だから受かってさえくれれば唐杉的に問題はないのだが。
「普段から一緒に何かした方がいいかなぁ?」
 もうすぐまたその訓練が始まるらしいという予定を聞いて、自分に出来ることはないか考えてしまった。
 そんな唐杉の頭をぽんっと叩いて部長が笑う。
「いらないよ。大丈夫」
「だって部長、今年は本当に落ちちゃうかも」
 万が一でも一人きりで副部長をする可能性を考えて、背筋がぞわっとした。
 でも、部長の言うとおり、毎回あんなにギリギリなのに、未来を見てみると山辺が試験に落ちる可能性は【まったくない】のだ。
 不自然なほどに。
 ……いつもは山辺に関しての未来は見ないけど、あんまり部長が自信満々に断言するから思わず見てしまった。
「いや、落ちないみたいですけど」
 確認して言い直し、ちょっと自己嫌悪にかられつつ唐杉はほっと息をついた。
 対して部長はにこやかに笑ったまま頷く。
「でしょ。だって、毎年最低基準はやっくんが全力を出してどうにか合格するラインで僕が設定してるもの」
「え」
「もちろん手を抜いたら落ちるよ? でも、やっくんはそういうの手を抜かないからね。抜かない限りは落ちないんだよ」
 どうりで毎年の合格基準が微妙に変わっていると思った。
 呆然と部長を見上げる唐杉の隣、半透明の少女が同じような顔で部長を見ている。
「落ちて困る子がいるなら、ちゃんと手は打たないとねー。まぁこの部署のはだけの基準だし問題ない問題ない」
 あれは各年に在籍する職員全員の能力を考慮して設定されているものなのかと思っていたが……まさかそんな私的な事情で操作されてるなんて思わなかった。なるほどだから常に審査役があの人なんだろう。
 安心は出来たけれど、これは山辺に言えそうにないな、と考えて唐杉は苦笑いしか出来なかった。
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