『あの子が欲しい』(イガルド「魔術士系」)
文字数 1,267文字
弱々しいソレを前に、拾う決断は一瞬だった。
普通の生物ではないと、幼生の間に殺せと迫られて、国を捨てる判断も一瞬だった。
後悔した事はない。
後に出会った魔術士経由で、ソレを側に置くことが自分が思う以上にオオゴトだと知った以降も、手放す選択肢はなかった。
どうしても無理だった。
*****
家族というものを誰よりも渇望していたのだと思う。
けれど同時に、自分にそれが似合わないとも戒めていたのだと思う。
単純に人に対しその役割を求めるような思考があるなら、ここまで極端な選択をする筈もない。普通にいつか誰かと出会い、その誰かをそこに置けば良いだけだったのだから。
だからこそ、人ならざるものならば側に置いて構わないのではないかとなったのだろう。
自分のような者に、人の家族は見合わないと、どこかでずっと思ってたのだ。
かんっと軽い音を立てて杖が空に飛ぶ。加減をしているので無闇に見失う程に飛んでいきはしない。それを追いかけて、ここまでの動きが嘘のようにとてとてとサフが杖を追いかけていく。
元々格闘の才があった(クリア曰く「確実に」親譲りらしい)サフは、城にいた頃にも幼女に思えぬ実力があったけれど、離れていた間にそれを絶え間無く研鑽していたようで、今では一流と言って過言ではない程の能力が開花していた。本人に自覚は薄いが、非凡にも程がある。
最近は気を抜くと自分すら負けてしまいそうになる程だ。
まだまだ老いた兵になる気はないので、あと数年は負けたりはしないが。
「僕ってやっぱり力無いよねぇ」
「単なる筋力という意味でなら、仕方ないだろ。誰だって何か足りないんだ。無いものは他で補うものだぞ」
どんなに才能があっても身体能力は一般女性を鍛えた程度の範囲でしかない。
その部分を補って余るほどの技量があるとはいえ、イガルド相手に勝ち越すには到底及ばぬから、無いものを嘆く。そんな彼女になんとなく安易な慰めをかけないのは、相手が他人よりも近い位置にいるからだろう。
とても歳の離れた妹。
元は主従の関係だと思えば大それた感覚かもしれないが、イガルドにとってのサファイアはどこまでも妹のようだった。妹のようだ、と思うことが出来た。
彼女が、どこか異質であったが故に。
その異質さこそが、自分がこの場所にいることに違和感を覚えない理由であると、もう薄々イガルド自身も理解していた。だからといって何が出来る訳では無いし、今更離れる気も到底起きなかったけれど。
「母様は力もあったらしいよ」
「そうらしいな」
「僕も母様くらい強くなりたいんだけど、難しいね」
そんな事はない。クリアのように当人を知る訳ではないが、今のサファイアが強くないなど、イガルドですら言えない。だけど当人を知らないからこそかける言葉が見当たらない。
迷った結果、杖を拾い終わった彼女に、黙って再戦の誘いをかけた。
こんこんと地面を叩く木の枝の音に振り返ったサフの青の目が輝く。
嬉々として誘いに乗ってきた無邪気な様子に、まだまだ子どもの面影を見てイガルドは穏やかな気分で杖を受け止めた。
普通の生物ではないと、幼生の間に殺せと迫られて、国を捨てる判断も一瞬だった。
後悔した事はない。
後に出会った魔術士経由で、ソレを側に置くことが自分が思う以上にオオゴトだと知った以降も、手放す選択肢はなかった。
どうしても無理だった。
*****
家族というものを誰よりも渇望していたのだと思う。
けれど同時に、自分にそれが似合わないとも戒めていたのだと思う。
単純に人に対しその役割を求めるような思考があるなら、ここまで極端な選択をする筈もない。普通にいつか誰かと出会い、その誰かをそこに置けば良いだけだったのだから。
だからこそ、人ならざるものならば側に置いて構わないのではないかとなったのだろう。
自分のような者に、人の家族は見合わないと、どこかでずっと思ってたのだ。
かんっと軽い音を立てて杖が空に飛ぶ。加減をしているので無闇に見失う程に飛んでいきはしない。それを追いかけて、ここまでの動きが嘘のようにとてとてとサフが杖を追いかけていく。
元々格闘の才があった(クリア曰く「確実に」親譲りらしい)サフは、城にいた頃にも幼女に思えぬ実力があったけれど、離れていた間にそれを絶え間無く研鑽していたようで、今では一流と言って過言ではない程の能力が開花していた。本人に自覚は薄いが、非凡にも程がある。
最近は気を抜くと自分すら負けてしまいそうになる程だ。
まだまだ老いた兵になる気はないので、あと数年は負けたりはしないが。
「僕ってやっぱり力無いよねぇ」
「単なる筋力という意味でなら、仕方ないだろ。誰だって何か足りないんだ。無いものは他で補うものだぞ」
どんなに才能があっても身体能力は一般女性を鍛えた程度の範囲でしかない。
その部分を補って余るほどの技量があるとはいえ、イガルド相手に勝ち越すには到底及ばぬから、無いものを嘆く。そんな彼女になんとなく安易な慰めをかけないのは、相手が他人よりも近い位置にいるからだろう。
とても歳の離れた妹。
元は主従の関係だと思えば大それた感覚かもしれないが、イガルドにとってのサファイアはどこまでも妹のようだった。妹のようだ、と思うことが出来た。
彼女が、どこか異質であったが故に。
その異質さこそが、自分がこの場所にいることに違和感を覚えない理由であると、もう薄々イガルド自身も理解していた。だからといって何が出来る訳では無いし、今更離れる気も到底起きなかったけれど。
「母様は力もあったらしいよ」
「そうらしいな」
「僕も母様くらい強くなりたいんだけど、難しいね」
そんな事はない。クリアのように当人を知る訳ではないが、今のサファイアが強くないなど、イガルドですら言えない。だけど当人を知らないからこそかける言葉が見当たらない。
迷った結果、杖を拾い終わった彼女に、黙って再戦の誘いをかけた。
こんこんと地面を叩く木の枝の音に振り返ったサフの青の目が輝く。
嬉々として誘いに乗ってきた無邪気な様子に、まだまだ子どもの面影を見てイガルドは穏やかな気分で杖を受け止めた。