『お前ごときに、救えるものか。』(烏間「仮初世界の疑似記録」)
文字数 1,123文字
困難な手術の前は、いつも誰かに嗤われている気がする。
万能じゃない自分が全力を尽くしたところで、何も変わらないことも多い。
何でこんな仕事選んじまったんだろうな、なんて魘され起きた夜明け前に、思ったりもする。
元から大それた高尚さなんかないのだ。ただ、生き汚いだけで。
*****
一応公務員であるし中間管理職なので、上から命令されれば気が向かない場所に出向くこともある。
例えば……同業者がいっぱいいる学会とか。
そうでなくてもこの国の医師というのは、未だに出身大学毎の派閥が根深く横たわっているというのに。この国の大学で医師免許をとっていない烏間への風当たりは弱くない。
というか、風というよりかまいたちの如く当たりが強い。
表向きそれがはっきり出ないのは、烏間の出身が国を超えて世界最高峰との呼び声高い場所だからだが、そこで獲得した免許をもってこの国の医師免許まであっさり発行された背景において、烏間自身の技能を超えて単にそこの威光を借りたのだろうという陰口は少なからず叩かれているのも知っている。
威光が一切なかったとは言わない。
彼らが思うよりもずっと強い、それこそ真の魔王的なそれだが。ただ、認可が下りた背景には、烏間自身が積み重ねた知識経験実績が大きく影響しているので、烏間自身はそれほど後ろ暗く思うところはない。借りた威光は単なる後押し程度だった。
どうでも良いが、陰口なら本人に聞こえないようにすればいいのに。
そんなことを思っていたら、会場の一部が俄かに騒がしくなった。自分への陰口も忘れ何やら慌てている周囲の変化に気づいて顔を上げた烏間の目の前、ものすごく見知った顔を見つけて一瞬硬直する。
「いっくん、隣いい?」
「……いやいやいや、何でいるんすか康介さん」
今回は一応同業者のみしか入れない学会のはずだ、と思う烏間に、相手はにこやかなまま隣に座ってくる。
周囲の騒ぎの原因はどうやらこの人らしいが、部外者に対してのものにしては妙に周りの視線がおかしい。警備員や係員が飛んでくる気配もない。
「え、だって僕も医師免許持ってるし?」
「は? 嘘だろ……」
思わずそう言ったが、この人の場合ありえると思ってしまう。
ただ、この人が普通に医大に通って免許をとっている様子は思い浮かばない。というか学生生活自体、想像つかない。そういえば今何歳なんだっけ、とまで思った所で想像を止めるが如く相手がにこやかに微笑み言う。
「この国じゃ医師免許ないと出来ないこといくつかあるから。誰かに頼むのも面倒だし?」
康介にとって、医師は単なる手段だという。
いかにも彼らしいその発言に、この相手に比べれば、自分は結構真面目に生きてるなぁ、と心底納得してしまった。
万能じゃない自分が全力を尽くしたところで、何も変わらないことも多い。
何でこんな仕事選んじまったんだろうな、なんて魘され起きた夜明け前に、思ったりもする。
元から大それた高尚さなんかないのだ。ただ、生き汚いだけで。
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一応公務員であるし中間管理職なので、上から命令されれば気が向かない場所に出向くこともある。
例えば……同業者がいっぱいいる学会とか。
そうでなくてもこの国の医師というのは、未だに出身大学毎の派閥が根深く横たわっているというのに。この国の大学で医師免許をとっていない烏間への風当たりは弱くない。
というか、風というよりかまいたちの如く当たりが強い。
表向きそれがはっきり出ないのは、烏間の出身が国を超えて世界最高峰との呼び声高い場所だからだが、そこで獲得した免許をもってこの国の医師免許まであっさり発行された背景において、烏間自身の技能を超えて単にそこの威光を借りたのだろうという陰口は少なからず叩かれているのも知っている。
威光が一切なかったとは言わない。
彼らが思うよりもずっと強い、それこそ真の魔王的なそれだが。ただ、認可が下りた背景には、烏間自身が積み重ねた知識経験実績が大きく影響しているので、烏間自身はそれほど後ろ暗く思うところはない。借りた威光は単なる後押し程度だった。
どうでも良いが、陰口なら本人に聞こえないようにすればいいのに。
そんなことを思っていたら、会場の一部が俄かに騒がしくなった。自分への陰口も忘れ何やら慌てている周囲の変化に気づいて顔を上げた烏間の目の前、ものすごく見知った顔を見つけて一瞬硬直する。
「いっくん、隣いい?」
「……いやいやいや、何でいるんすか康介さん」
今回は一応同業者のみしか入れない学会のはずだ、と思う烏間に、相手はにこやかなまま隣に座ってくる。
周囲の騒ぎの原因はどうやらこの人らしいが、部外者に対してのものにしては妙に周りの視線がおかしい。警備員や係員が飛んでくる気配もない。
「え、だって僕も医師免許持ってるし?」
「は? 嘘だろ……」
思わずそう言ったが、この人の場合ありえると思ってしまう。
ただ、この人が普通に医大に通って免許をとっている様子は思い浮かばない。というか学生生活自体、想像つかない。そういえば今何歳なんだっけ、とまで思った所で想像を止めるが如く相手がにこやかに微笑み言う。
「この国じゃ医師免許ないと出来ないこといくつかあるから。誰かに頼むのも面倒だし?」
康介にとって、医師は単なる手段だという。
いかにも彼らしいその発言に、この相手に比べれば、自分は結構真面目に生きてるなぁ、と心底納得してしまった。