『名前を教えて』(山田「そんな奴らのHigh School LIFE(0)」)

文字数 1,000文字

「山田ってあんまり名前呼ばなくない?」
桂木が唐突にそう言い出したのは、飯も終わった昼下がりの休み時間。
「は? 呼んでるだろ、桂木」
何言い出すんだこいつ、と思いつつ答えれば、違う違うと桂木がさらに食い下がる。
「下の名前! 俺はいっぺーちゃんって呼んでるのに」
今更気づくか。
*****

 桂木は割とウェーイ系というか、誰の名前も気軽に呼べる性格をしていると思う。
 まぁホストだしな。
 さすがに学校で女子の名前を呼び捨てしてるのは見かけないけど、男子ならふざけて下の名前を呼んでくることがある。それは俺に限らず、桂木と仲良くしてる男子なら誰だって可能性があるものだ。
 呼び分けてる基準はよくわからんが、まぁ男子高校生としては不自然じゃ無い程度だからあまり気にした事はない。
 だが、俺はそういう性格じゃない。
 てか下の名前とか苗字が被ってる以外の理由で呼ぶ理由が思いつかんくらいには、呼ぶ気がない。
 どっちが良い悪いっつー話でもないだろう。こういうものは、本当に性格に依存するんだと思う。
「よーんーでーよー」
「断る」
「酷い! 学校でいちばんの仲良しだと思ってたのに!!」
「仲の良さとそれは関係なくね?」
 恋人ならまだしも、友人で名前呼びイコール親しさの証明なんてのは暴論だろう。
 小学校くらいまでならまぁそれもわからんではないけど、高校生にもなって名前呼びじゃないとおかしいなんて聞いたこともない。社会に出りゃどんな付き合いでも殆どの場合は苗字呼びになるらしいし(バイトでもそうだし)、と考えたところで目の前の男は隠れ社会人だったのを思い出す。
 もしやこれは社会人だからこその主張か?
 いやでも目の前のふくれっ面には、大人らしさの影なんてカケラもない。
「お前なら他に名前呼んでくれる相手なんかいっぱいいるだろ」
 何をそんなに拘ってんだと思いながら指摘すれば、机に突っ伏したイケメンはじとっと視線だけ俺によこして小さな声で言う。
「……多いけど、本名じゃないの多いし」
 あー。
 あれか、源氏名?
 店の中で使う名前があるんだよな、ホストって(ゲームとかドラマとか漫画の聞きかじりだけど)。
 じゃあ何か。周りは仕事がらみの相手ばっかりで、呼ばれる名前も仕事の名前ばっかりだから、普通に名前を呼んでもらいたいみたいな……。
「って、お前は恋する女子かっ!!」
「あいてっ!」
 思わず桂木の頭を叩くと大袈裟に叫び声が上がった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み