『御馳走様でした。』(レイ「楽園外のセフィラ;第4の話」)
文字数 1,646文字
「ど、どうですか?」
差し出された見栄えの悪いそれを一つまみ。
口の中に入れたら、微妙な味。
美味しい訳じゃないが、不味くもない。見た目通りだ。
「普通じゃね?」
言うと、少女がほっとした顔になる。
「良かった」
「いいのか?」
「だって普通だから」
成る程、そうくるか。
*****
「ヒナ、今後そういうのは全部僕が食べるから」
「でも……失敗してたら」
「構わないよ。いいね?」
*****
(サクヤへの贈り物です)
ヒナのイメージ
ケセド:正直な感想言ってくれなさそう。(そうでもない)
レイ:遠慮なさそう。(基本は無い)
サクヤ:気を使わせそう(そうでもない)
レイは遠慮じゃなく、子どもに対して普通に最低限の言葉を選ぶ大人の対応をするけど、ヒナの反応が斜め上でちょっと焦る
*****
ヒナが1人でも、どうにか料理が出来るようになってしばらく。
「別に俺はね? 嫌がってるわけじゃねーのよ?」
いつもの如く唐突に補佐官の体を乗っ取った迷惑な存在は、珍しく歯切れが悪い様子だった。
複雑そうな表情で頭をかき、応接用の椅子にふんぞり返っている姿は、体の持ち主であるビャクヤなら絶対に見せないようなものだ。別にその行動を不敬と思う気は無いが、今回は一体何だと冷めた視線を送ってしまう。
そんな視線に負ける様子もなく、相手は話を続ける。
「役得とも思ってねーけど、まぁ頑張れよっつー感じ?」
何が言いたいのかわからない。そろそろ口を挟むべきかと思い始めたのを読み取ったかのように、相手は急に本題へと切り込んできた。
「ただな? お前はそれでいーんかなぁって。お前でもサクヤちゃんでもなく俺にお願いがくること自体さぁ」
「……ヒナがどうしたんです」
主語はないけれど、この相手からここまで言われて、彼女の話でない訳がない。
仕事の手を完全に止め、割と本気で殺意に近い感情を抱きつつも一抹の理性でもってそれを抑え問いかけたケセドに、相変わらずセフィラの前には実体で現れる気がない男は、するっと宙空から解析の穴を生み出し、そこに手を突っ込んで何かを取り出すと、それを投げてきた。
受け取ったものを確認すると、ちょっと歪で焼きムラも見える、少なくとも店で買うような品でない焼き菓子が紙に包まれている。冷めきっているので焼きたてという訳でもないようだ。
「あの子がさー、お前に味見頼まないのは、第一に遠慮的なもんが大きいんじゃねーのっていう話だよ」
その言葉は、この菓子がヒナの作ったものであると言っている。
「これがさ、お前に失敗作食わせたくないっつーかわいい乙女心だったら俺も仕方ねーって思うんだがね? これサクヤちゃんへのプレゼントの試作らしいじゃん? その試食をお前に任せられないっつーのは、なぁ?」
「……報告どうも」
後はこちらでやっておきます、と苦々しく伝えれば、相手はじっとこちらを見てきた。
「間違えんなよ?」
ふっと相手の様子が変わる。
どこか達観した老人のような視線で、こちらを眺めてくる姿は、補佐の見た目年齢以上に年月を感じさせた。
「周りに気を使いすぎるあの子が必要としてんのは、本音だけだ。お前にそれが与えられなきゃ、またあの子は俺を頼ってくるぞ」
「肝に命じておきます」
彼女がこの相手を頼った理由は恐らく、この存在ほど相手に対する細やかな遠慮だの気遣いだのと縁が遠い者もいないだろうと思ったからだろう。そう思う気持ちはとてもよく理解できるし、翻ってヒナにとっての自分が、ヒナに対しそういうものをしない筈がないと彼女が考えるのも理解できる。
だが。
ヒナは知らない。
この相手に頼られるくらいなら、幾らだって本音を伝える。否、そんなこと関係なく、彼女が望むのならば、自分自身の気持ちを隠してでも望むように振る舞えるのだ。正直な感想が求められるならば、傷つけたくないなんて自分の欲求なんていくらでも押し殺す。
とりあえず今日帰ったら、ヒナにはちゃんと伝えないと。
思いながら一口かじったその焼き菓子は、彼女自身のような未完成さだった。
差し出された見栄えの悪いそれを一つまみ。
口の中に入れたら、微妙な味。
美味しい訳じゃないが、不味くもない。見た目通りだ。
「普通じゃね?」
言うと、少女がほっとした顔になる。
「良かった」
「いいのか?」
「だって普通だから」
成る程、そうくるか。
*****
「ヒナ、今後そういうのは全部僕が食べるから」
「でも……失敗してたら」
「構わないよ。いいね?」
*****
(サクヤへの贈り物です)
ヒナのイメージ
ケセド:正直な感想言ってくれなさそう。(そうでもない)
レイ:遠慮なさそう。(基本は無い)
サクヤ:気を使わせそう(そうでもない)
レイは遠慮じゃなく、子どもに対して普通に最低限の言葉を選ぶ大人の対応をするけど、ヒナの反応が斜め上でちょっと焦る
*****
ヒナが1人でも、どうにか料理が出来るようになってしばらく。
「別に俺はね? 嫌がってるわけじゃねーのよ?」
いつもの如く唐突に補佐官の体を乗っ取った迷惑な存在は、珍しく歯切れが悪い様子だった。
複雑そうな表情で頭をかき、応接用の椅子にふんぞり返っている姿は、体の持ち主であるビャクヤなら絶対に見せないようなものだ。別にその行動を不敬と思う気は無いが、今回は一体何だと冷めた視線を送ってしまう。
そんな視線に負ける様子もなく、相手は話を続ける。
「役得とも思ってねーけど、まぁ頑張れよっつー感じ?」
何が言いたいのかわからない。そろそろ口を挟むべきかと思い始めたのを読み取ったかのように、相手は急に本題へと切り込んできた。
「ただな? お前はそれでいーんかなぁって。お前でもサクヤちゃんでもなく俺にお願いがくること自体さぁ」
「……ヒナがどうしたんです」
主語はないけれど、この相手からここまで言われて、彼女の話でない訳がない。
仕事の手を完全に止め、割と本気で殺意に近い感情を抱きつつも一抹の理性でもってそれを抑え問いかけたケセドに、相変わらずセフィラの前には実体で現れる気がない男は、するっと宙空から解析の穴を生み出し、そこに手を突っ込んで何かを取り出すと、それを投げてきた。
受け取ったものを確認すると、ちょっと歪で焼きムラも見える、少なくとも店で買うような品でない焼き菓子が紙に包まれている。冷めきっているので焼きたてという訳でもないようだ。
「あの子がさー、お前に味見頼まないのは、第一に遠慮的なもんが大きいんじゃねーのっていう話だよ」
その言葉は、この菓子がヒナの作ったものであると言っている。
「これがさ、お前に失敗作食わせたくないっつーかわいい乙女心だったら俺も仕方ねーって思うんだがね? これサクヤちゃんへのプレゼントの試作らしいじゃん? その試食をお前に任せられないっつーのは、なぁ?」
「……報告どうも」
後はこちらでやっておきます、と苦々しく伝えれば、相手はじっとこちらを見てきた。
「間違えんなよ?」
ふっと相手の様子が変わる。
どこか達観した老人のような視線で、こちらを眺めてくる姿は、補佐の見た目年齢以上に年月を感じさせた。
「周りに気を使いすぎるあの子が必要としてんのは、本音だけだ。お前にそれが与えられなきゃ、またあの子は俺を頼ってくるぞ」
「肝に命じておきます」
彼女がこの相手を頼った理由は恐らく、この存在ほど相手に対する細やかな遠慮だの気遣いだのと縁が遠い者もいないだろうと思ったからだろう。そう思う気持ちはとてもよく理解できるし、翻ってヒナにとっての自分が、ヒナに対しそういうものをしない筈がないと彼女が考えるのも理解できる。
だが。
ヒナは知らない。
この相手に頼られるくらいなら、幾らだって本音を伝える。否、そんなこと関係なく、彼女が望むのならば、自分自身の気持ちを隠してでも望むように振る舞えるのだ。正直な感想が求められるならば、傷つけたくないなんて自分の欲求なんていくらでも押し殺す。
とりあえず今日帰ったら、ヒナにはちゃんと伝えないと。
思いながら一口かじったその焼き菓子は、彼女自身のような未完成さだった。