『救うのは僕じゃない』(シロ「魔術士系」)

文字数 1,183文字

普段にない色合いの相手を見上げる。
髪と目の色を交換しているのだという。それ以外はそのままなのに、感じる違和感は何だろう。やっぱり夜空のようなあの色の方が似合ってると思う。
同じように思ってるのか、金の髪の青年が思案顔で腕組みしたと思ったら。
さらに事態をややこしくしてくれた。
*****

「オイ、戻せよ」
「アミル戻って来たらねー」

「ただいま……え、シロ? てかイガルド? ええー」
「意外に似合うよね」
「いやいやいや、何してんすか」
「ちょっと魔術組み換えて?」
「この後戻すんすけど!?」

「俺はともかくお前はその色の方が獣っぽいかもな」
「わふん」
*****

 変えたのは髪色(毛色)のみ。
 それでも印象は変わるものだ。
 試してみたかったというクリアの言葉に嘘はないのだろう。悪気だって入ってないのも分かっている。
 が、まるで本当に森のどこかにいそうな感じにしっくりと自分の髪色を纏っているシロ(今は茶色)を前に、アミルは一瞬意識が薄れそうな気分だった。

 クリアは新しい魔術を作ることは不得手であると自分でも宣言している。
 だがそれは実の所「完全に新しいものだけ」であって、こういう既に元が出来上がってるものを手直しする分に関してまでは、不得手と真逆の存在である。自覚があるかは怪しいが、これを得意と言わず何を得意と言うのか、という位に卓越している。
 しかも何が笑えないかって、その手直しの過程においてほぼ新しい魔術を作ってるような状態が多く発生してても、本人だけはその認識が欠けている事だ。
 元があるから、これは新しいモノではないという妙な思い込みがあるように思える。

(人間同士での交換と魔獣との交換じゃ組成から違うんだから全部組み直しだっつーのにこの人は)

 全くもって思い込みは恐ろしい。
 が、それだけで終わらない問題であるからこそ一瞬意識を飛ばしかけたのだ。
「クリア、それ、そっちで解いてくれるっすよね?」
「え?」
 ……これである。
 心底意外なことを聞かれた、みたいな顔を向けられたけれど、全く同じ表情を返したい。
「いつもアミルがやってるじゃん」
 確かに普段はやってるが、それは頼んで自分でかけてるものであるから当たり前の話。100歩譲ってそれが人間同士のものなら確認せずに解けるけれど、魔獣にまで飛び火したら状況は変わってくる。便宜上「解く」とは言ってるが、実際にするのは魔術のかけ直しであって、幻術を消すようなそれではない。
 つまり、魔獣と交換する上でほぼ別物になった初見の魔術を、いつも通りに簡単に解けるだろうと言ってくださってるのだ、この金の術士は。しかも本気で。
「いつも通りにやっちゃっていいよ?」
 いや待て全然違う魔術だろコレ。
 そう言い返したかったけれど、できないと即答するなんだか癪だし、全くできないかもとまでは思わないので、返事の代わりにため息をこぼした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み