第48話

文字数 517文字

「宅配ボックス、のぞかなかったの?」

不意に、奥さんが言ってきた。

何年もまともに笑った顔なんて見てなかったな…などと呑気な事を、遺影を見ながらほおけていたから、急に現実に引き戻された。

自宅の置き配入れには、私が食べたいと言っていた食材が届けられていた。

腐り始めていた食材。
あの日、妹は私の好きなものを作るためにネットで食材を注文していて、それが届けられていたようだ。

妹。

何だかんだときちんと気にかけていてくれた。
そう思ったら、涙が湧いてきた。

ひとしきり泣いた。
あの子の大して上手くなかった料理ももう食べる事ができない。

この世界に、余命を宣告された私と唯一の血縁者の甥が残されたという事実。

甥が哀しい顔で私の頭を撫でている。
自分は涙を目にたくさん溜め込んで、泣かないように必死になりながら。

その姿を見た社長が、
「あっちで、少し話さないか…。」
と言い、私の作業場へと促した。

散らかっている作業場兼寝室に、正常な私なら自分以外を絶対に入れないのだが、今は正常な判断ができていない。
その部屋も、後で奥さんがこっそりと整えてくれた。

もう一回、手術をしもう少し生きる方に考えを変えないか、という内容だった。

少し考えたい。
そう答えるのが精一杯だった。
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